夢inシアター
採れたて情報館/No.82


ジャックナイフのちょっとサントラ'99年5月


今回は新作プラスアルファでご機嫌をうかがいます。


隣人は静かに笑う

意外や意外のサスペンススリラーの音楽を手がけたのは、「ツイン・ピークス」のアンジェロ・バダラメンティです。オープニングでシンセサイザーによるショッキングな音楽で幕を開けます。一体どうなるのかと思っていると、その後はシリアスなオーケストラ音楽がまっとうなドラマを支えるという、ドラマの構成にフィットした音作りが職人のうまさを感じさせます。そして、サスペンスが盛り上がるクライマックスへ向けては、唸り声やらノイズやらを織り交ぜた現代音楽風ホラー音楽になっていき、打楽器主体のダイナミックな現代音楽がクライマックスでは鳴り響きます。そして、エピローグの静かで不気味な余韻まで、音楽がドラマを見事に支えています。ドラマの流れと同様、かなり意表を突いた音作りになっているのが聞き物です。

8mm

サイコものとは一線を画す不気味なホラー映画に不可思議な音をつけたのは、「エキゾチカ」「スィート・ヒアアフター」などで知られるマイケル・ダナです。いよいよ彼も、ハリウッドのメジャーな映画を手がけるようになってきたようです。シリアスな部分はオーケストラ音楽を聞かせる一方、中近東風の音作りで非日常的なポルノ業界を描写しています。まっとうな家庭人である主人公の葛藤部分をピアノやストリングスできっちりとまとめるあたりは、ハワード・ショアを思わせる重厚な音作りでなかなかの聞き応えがあります。そこへ、中近東風のコーラスやらパーカッションが割り込んできて、ちょっと異様で官能的な世界に聴く者を誘い込んでいきます。その曲名が「ハリウッド」というのが笑ってしまうのですが、なるほど言い得て妙だと感心してしまいます。クライマックスに向けては、このちょっとエロチックな音に主人公のシリアスな音が絡み合って、狂気に満ちた世界に首を突っ込んでしまう主人公の葛藤を見事に表現し、サスペンスを盛り上げています。エピローグの不安げな音楽までこの映画の空気を見事に描ききりました。

エバー・アフター

気は優しくて力持ち、でも怒ると怖いシンデレラの物語の音楽を手がけたのは、「クルーシブル」のような重いドラマから「ユー・ガッタ・メール」のようなライトなコメディまで幅広く手がけるジョージ・フェントンです。オーケストラによる美しいタイトル音楽は童話の世界にふさわしいオープニングです。そこへ不安な音がかぶさってきてシンデレラの物語は始まります。ちょっとアイリッシュ風のメインテーマが映画の舞台にうまくマッチしています。この映画はシンデレラのキャラクターのせいか湿っぽくならないので、音楽の方も「夢と冒険の物語」にふさわしい、メリハリのある楽しい音作りになっていまして、静かな曲から活劇調の音まで、ドラマにうまくシンクロしているのが聞き物です。ただ、予告篇に流れていたのがどうもロバート・マイルズの「チルドレン」「寓話」のように思えてならないのは何故かしら。

エネミー・オブ・アメリカ

ノンストップ・アクション・サスペンスの音楽を手がけたのは、「アルマゲドン」でも共作していたトレバー・ラビンとハリー・グレグソン・ウィリアムズです。これはもう徹底したアクション音楽の典型ですが、タイトルバックの通信衛星の映像が高速でコラージュされるバックに流れる音楽がなかなかにかっこいいのですよ。リズムを刻むシンセにオーケストラ音楽のシリアスな旋律が絡んできて、全体に流れるトニー・スコット風かっこよさをうまく表現しています。ハンス・ツィマー一派の二人だけに、シンセサイザーのパーカッシブな音も軽くなりすぎず、ヒロイックテーマもきちんと盛り込んでいるあたりは、お約束と申しましょうか、毎度おなじみと申しましょうか。とはいえ、オーケストラぶん回しで重厚さとスピード感の共存ということになると、先達のツィマーやマーク・マンシーナにかなわないという印象を持ってしまいます。

ムービーセレクション(ホラー・スリラー編)

前回、SF・アクション編をご紹介しましたが、今度はまたホラー・スリラー編です。選曲のマニアックなのがうれしいシリーズなのですが、今回はマニアはうれしくなるようなコンパイレーションです。グレアム・レベルの「ザ・クロウ」「ザ・クラフト」にマルコ・ベルトラミの「スクリーム」「ミミック」といった知る人ぞ知る名曲が入っているのがうれしいではありませんか。この類のジャンルムービーとはかかわりの薄いはずのパトリック・ドイルの「愛と死の間で」「ニードフル・シングス」を持ってくるあたりは大したセンスです。どちらかというと重めの音を集めてありまして、ロックのベスト盤とは一味違うオーケストラ音楽のベスト盤、夜のお供にいかがでしょう。特におすすめどころは「ミミック」「ニードフル・シングス」そしてダニー・エルフマンが何故か1曲だけ提供した「キャプテン・スーパーマーケット(死霊のはらわた3)」の「暗黒の軍隊の行進」といったところです。


「隣人は静かに笑う」以外は日本盤が出ています。

ジャックナイフ
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