夢inシアター
採れたて情報館/No.80
ジャックナイフのちょっとサントラ'99年3月
ちょっとサントラもの3月は新作中心のとりあわせです。
ポーランド系アメリカ人一家を描くホームドラマの音楽を手がけたのは、「イル・ポスティーノ」の美しいメロディが印象的だったイタリアのルイス・バカロフです。音楽的にはヨーロッパ的なサウンドを意識し、さらにジプシーの味わいも加えたということで、現代的とは思えないけど、人なつっこくて、ちょっとコミカルなテーマが映画全体のカラーを決定付けています。また、タイトルバックの宗教画にかぶさる子供たちの「サンタ・マリア」のコーラスも印象的です。この映画の底に流れる宗教的基盤も奏でながら、一方では自由な人間のドラマもうたいあげるあたりが聞き物です。音楽だけ聞くと、あの「ロボコッブ」の舞台でもあるデトロイトの物語とはとても思えないのですが、きっと、先祖から受け継ぐ独特の文化を守るコミュニティがアメリカのあちこちにあるのでしょうね。
いよいよガメラも完結篇、その音楽を手がけたのは前2作に引き続いて大谷幸です。第一作の怪獣を前面に出した音作り、そして第二作では自衛隊を中心とする人間側の動きに重きを置いた音楽を提供してきましたが、今回はドラマが一人の少女を中心にSF的な広がりを見せる分、音楽も怪獣中心ではない、ある種、神秘的宗教的な色あいの濃い音になっています。前二作と同様、ガメラのテーマは流れるのですが、むしろ、神秘的なもう一つの新しいテーマの方が印象に残ります。このテーマはあるときはオーケストラで、またあるときは女声コーラスによって奏でられ、ガメラやイリスよりもさらに上位に位置する大きな意志の存在を示しているようです。また、少女とイリスとの関わりの部分では、これまでないようなピアノメインの音や、叙情的に盛り上げるオーケストラ音楽を入れて、怪獣映画とは一線を画す音楽が入っています。映画自身も悲壮感あふれる展開だけに、音楽もドラマチックな盛り上がりを見せ、クライマックスは神秘的なテーマとガメラのテーマを組み合わせてなかなかの聞き物になっています。個人的にはガメラのテーマよりも、少女やイリスを取り巻く音楽の方に味があって好きなのですが、ともかくも完結篇らしい音作りになっています。ただ、あのエンディングの後、すぐに「もう一度教えて欲しい」という主題歌が流れてくるのはいただけなかったです。その後を予感させるエンディングだけに、画面暗転後もオーケストラの重厚音楽で余韻を残して欲しいところでした。
aolとスターバックスコーヒーのコマーシャルのような恋愛映画の音楽を手がけたのはジョージ・フェントンです。この人は「ガンジー」「永遠の愛に生きて」などのシリアス重厚ドラマから、「恋はデジャブ」やこの作品のようなライトなコメディまで手がける、非常に守備範囲の広い人でして、各々のジャンルでソツのないうまさを見せてくれます。既に挿入歌のサントラアルバムは発売されているのですが、ようやっと輸入盤で、フェントンのスコア盤が出ました。ピアノを中心に小編成のストリングスが、ささやかなロマンスに、潤いを与えています。コミカルな部分もオーボエやホルンなどの管楽器を使って軽快な音にまとめていますし、ジャズタッチの部分の軽快な味わいも職人芸のうまさを感じさせてくれます。CDを聴くと、こんな音楽も流れていたのかなあって気もするのですが、どれも「ユー・ガッタ・メール」の世界にきっちりフィットしているのです。都会のラブストーリーの音楽は、ちょっと沈みがちのシーンにも、静かな暖かい音をつけて、全体のトーンをチャーミングにまとめあげてました。ところで、ラストの「オーバー・ザ・レインボウ」に何だかおかしさを感じてしまうのは、私だけでしょうか。
前作ほどは怖くないけど、大ヒットになった変則的な続編です。音楽を前作から引き続いて川井憲次が担当し、シンセサイザーによる恐怖サウンドを展開しています。前作では音楽は、効果音のように、ひたすら恐怖の増幅のために使われていた節があるのですが、今回はもっとドラマに寄りそった形で、登場人物の感情や運命といったものを表現して、言い方は悪いですが、音楽に近づいたという印象です。それでも、ドヨーン、ビヨーンな音は健在で、これが鳴り出すと劇場でも「来るぞ来るぞ」と身構えてしまいました。それでも、今回はピアノによる環境音楽風から、オーケストラ風アレンジによる活劇調、シリアスドラマ音楽とバリエーションが増えて、なかなか楽しいアルバムになっています。前作のアルバムは、夜聞いてるとなんだか後ろが気になってしまう怖さがありましたけど、今回は大丈夫でしたもの。ただ、ラストで今井美樹による「氷のように微笑んで」が流れるのですが、ここだけ妙に浮いてしまいました。前作の「くーるー、きっと来るー」のテーマのインパクトにはかなわないようです。
サンドラ・ブロック製作・主演のしっとりラブロマンス(らしいですって)の音楽を手がけたのは、ジャズ・ピアニスト、プロデューサーとしても有名で、「恋に落ちて」「黄昏」などで知られるデイブ・グルーシンです。今回は舞台が田舎町のせいか、カントリー調の音も交えて、静かな心のゆらめきを丹念に描写しています。いつものアコースティック・ピアノによるグルーシン・タッチはあまりないのですが、ギターやサックスのソロにストリングスをからませながら、全体をしっとりとしたタッチでまとめています。ところどころにアップテンポな曲や、コミカルなナンバーも入っているのですが、やはりストリングスと管楽器主体の静かな音楽が聞き物です。映画の中ではきっと隠し味のような使われ方をしているのですが、それが映画の空気を暖かいものに変えているのだと思います。映画の感動を呼び起こすタイプのアルバムとしては、かなりいい線いってるのではないでしょうか。
なぜか、70年代のイタリア刑事もの映画のコンパイレーションアルバムのご紹介です。イタリアの警察ものには「警視の告白」「黒い警察」などの作品的にも音楽的にも優れたものもあるのですが、ここで紹介されているのは、日本未公開の作品が多くて、それもB級のイメージの濃い作品群です。グイド&マウリツィオ・デ・アンジェリス、ルイス・バカロフ、ステルビオ・チプリアーニ、アルマンド・トロバヨーリなど、70年代のイタリア映画を御覧になった方には懐かしい名前がならんでいます。個人的にうれしかったのは、「ハイクライム(死神の骨をしゃぶれ)」のテーマと、そして「ビッグマグナム77」の追跡のテーマが入っていたことです。特に渋谷系でちょっとブームになったトロバヨーリによる「ビッグマグナム77」は是非完全CD化して欲しい一品です。厚みのあるジャズタッチと重量感のあるアクションテーマはかなりいい線だと思うんだけどなー。
今回は「ガメラ3」「リング2」以外の日本盤は未確認です。
ジャックナイフ
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