夢inシアター
採れたて情報館/No.79

ジャックナイフのちょっとサントラ'99年2月


今年もあけて、サントラものは新作中心のご紹介です。


鳩の翼

1910年のロンドンを舞台にした哀しい愛のドラマの音楽を「スピーシーズ2」のエドワード・シャーマーが手がけました。静かだけど厚いストリングスからオーボエが絡んできて、ストリングスがメインテーマを奏でていきます。20世紀初頭という時代を感じさせながら、重厚な音が、救いのない悲劇をフォローしていきます。悲劇を謳いあげるというよりは、その時代と悲劇的な境遇を叙事的に描写しているところが見事な聴かせる音になっています。特に夜のベニスを描写する幻想的な音が印象的でした。次回作が気になる作曲家として要チェックというところでしょうか。

ヴァンパイア・最後の聖戦

ジョン・カーペンター監督によるアクションホラーの音楽を、いつものように監督自身が手がけました。アメリカの砂漠地帯が舞台なせいかノイジーなギターサウンドが前面に出てきます。一方、毎度のシンセによる反復音楽も登場していますが、これまでの無機質な音に比べるとドラマチックでエモーショナルな音になっています。そういう意味ではマトモな映画音楽になっていると言えますが、これまでのようなカーペンターサウンドを期待すると、「なんかマトモすぎるんでないかい」という妙な言いがかりもつけたくなってしまいます。また映画自身がアクション主体のせいか、いつもの「ベンベン」節と呼ばれる独特のサウンドも、ギターがギンギンと鳴って、テンポアップしています。彼の作品の中では「ゴーストハンターズ」のノリに近い作風と申せましょう。

ラッシュアワー

ジャッキー・チェン主演のハリウッドアクションの音楽を手がけたのは、アクションもののベテラン、ラロ・シフリンです。「ダーティ・ハリー」「燃えよドラゴン」など'70年代のアクション映画でその実力を発揮した人ですが、今回もそのシフリン節が健在と言うか、変わってないなあと言うべきか。東洋趣味を前面に出してパーカッションを軽快に鳴らすサウンドはベテランの余裕も感じられます。最近のハンス・ツィマー一派のアクション映画の音楽がオーケストラぶん回し型の強引盛り上げ重厚サウンドとすれば、シフリンの音は軽いけどシャープな音で、若い人にはそのノリの良さが新鮮に聞こえるかもしれません。シリアス部分で、オーケストラを使った盛り上げ音楽もあるのですが、アクションシーンはあくまでシャープに軽快というタッチは、最近のアクション映画ではなかなかにお目にかかれませんもの。これで、ラロ・シフリンにスポットライトが当たるのなら、次は'70年代軽快アクション音楽の職人チャールズ・バーンスタインあたりがまた登板する機会はないかなあって期待しているのですが、どんなものかしら。

ワイルドシングス

騙し騙されサスペンスの音楽を手がけたのは「モータル・コンバット」「オースティン・パワーズ」といった作品があるジョージ・S・クリントンです。フロリダの沼沢地帯が舞台の一種不思議な雰囲気の映画だけに、ちょっと前衛的なジャズタッチの音でミステリアスな空気を感じさせてくれます。その雰囲気作りはアンジェロ・バダラメンティによる「ツイン・ピークス」のそれに近いものがあります。ただ、こちらの方がより無機質でブラックコメディのような味わいもあり、掴み所のないストーリーをうまくサポートしていますが、その分CDとして音楽だけ聴くのはちょっとしんどいかもしれません。

レ・ミゼラブル

ジャン・バルジャンの波瀾万丈の物語にドラマチックな音楽を提供したのは「コナン・ザ・グレート」「ロボ・コッブ」のベイジル・ポレドゥリスです。どちらかというと血湧き肉踊るスコアが有名なのですが、今回は脇役としてドラマを支えるポジションで、重厚なオーケストラサウンドを聞かせてくれます。オープニングのテーマから拡張高いメロディと厚いストリングスが胸を打ちます。そして、ドラマチックな展開に呼応して、うねるようなオーケストラがドラマを盛り上げていきます。また、クライマックスの市街戦のシーンは彼らしいダイナミックな音作りが印象的です。このあたりは、テレビの感動再現ドラマなどで使われそうな気がします。

ロスト・イン・スペース

これは以前ご紹介させていただいたサントラCDとは別に、ブルース・ブロートンのスコアのみを67分たっぷりと聞かせてくれるスコア盤のCDが出ましたのでご紹介です。シンフォニア・オブ・ロンドンによるシンフォニック・スコアは見事に映画の格を上げています。この映画は家族愛をテーマにしたシリアスドラマの一面も持っているのですが、そのシリアスな部分を音楽が見事に補強しています。スペクタクルシーンにでっかい音を鳴らすだけでなく、きちんと登場人物を押さえた音作りをしているのが見事です。ドラマをサポートする音楽とはまさにこれをさしているのでしょう。

スタートレック(完全版)

ジェリー・ゴールドスミスの「スター・トレック」が公開されて20年だそうです。当時発売されたサントラ盤(当時はLP)は40分ほどの内容でしたが、今回は65分のほぼ完全版だそうです。ファンにはうれしい宝物なのですが、さらにもう1枚音楽ではない関係者へのインタビューをおさめたCDもついているというマニアックな豪華版です。音楽はやっぱり懐かしいという感じでしょうか。音楽CDを全体通して聴いた印象は昔のアルバムとそれほど大きな違いがあるとは思えませんでしたが、昔のアルバムをお持ちでない方にはオススメの見事なスコアです。ただし、インタビューCDの分、輸入盤としても値段が高いのが困りモノです。

「レ・ミゼラブル」「ラッシュ・アワー」「ワイルドシングス」は日本盤が出ていると思います。

ジャックナイフ
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