夢inシアター
採れたて情報館/No.77

ジャックナイフのちょっとサントラ'99年1月


1999年、新年最初のサントラものは、お正月映画中心にご機嫌を伺います。

ロスト・イン・スペース

宣伝の内容より、本編の方が面白いというSF映画の音楽を、「ターゲット」「トゥーム・ストーン」など渋目の作風で知られるブルース・ブロートンが担当しました。SF大作らしいダイナミックなオーケストラ音楽は、CDの後半部分のみで、前半は既製曲が並んでいます。前半の中では、予告やCMでも流れているアポロ440によるテレビ版のテーマ(作曲ジョン・ウィリアムス)のカバーバージョンがクールに決まりました。また、他にも「リング」のテーマを手がけたジュノ・リアクター&クリーチャーズのトランス系の音も楽しいです。一方のブロートンのスコアはオープニングからスケールの大きいオーケストラの厚い音を聞かせてくれます。そして、ジュピター号発進のわくわくするような音の積み重ねの盛り上がりがお見事です。その後も冒険活劇映画らしい(ちょっとシンドバッド風な)音で全体を盛り上げています。ちょっと「惑星」や「春の祭典」を思わせる音も交えて、金管、木管、ストリングスを縦横に使い切った音は、全体として一つの組曲のような聞き応えがあります。また、日本盤のアルバムについている解説が、珍しく、最近の映画音楽全般や、ブロートンについて丁寧にコメントしていますので、こちらもオススメしときますです。

アルマゲドン(スコア盤)

エアロスミスの主題歌が有名で予告やCMでもさんざん聞かされているのですが、一方のスコアは、元ロックグループ、イエスのトレバー・ラビンです。音としては、いわゆるハンス・ツィマー一派の音になっておりまして、オーケストラやコーラスの使い方は「クリムゾン・タイド」や「ザ・ロック」のタッチを踏襲しています。ヒロイックなサウンドの典型でして、これからテレビのドキュメンタリーなんかで使われそうな音楽になっています。でも、これまでのツィマー一派のアクション音楽との違いが感じられなくて、地球の危機というスケール感が出ないのが今一つでした。また、映画の中ではでっかい効果音にかき消されてしまい、エアロスミスの主題歌以外、耳に残らなかったというのは、ちょっとお気の毒。

6デイズ・7ナイツ

ハリソン・フォード主演の冒険アクションコメディの音楽を職人芸の達人ランディ・エデルマンが担当しました。静かで雄大なオーケストラサウンドで幕を開けるオープニングから期待させます。南国風サウンドからリズミカルに流れたりもしますが、飛行機が飛ぶシーンは冒険映画らしいダイナミックな音を聞かせてくれます。特に飛行機が遭難するシーンのドラムがドコドコなるあたりが圧巻です。本編の音響設計でも音楽が非常に大事に扱われていましたが、その扱いに応えるメリハリのあるサウンドが聞き物です。ホーンセクションやストリングスの厚みのある音が、南国風ドラムと一緒になってドラマを盛り上げます。ラブ・ストーリー部分の静かなテーマも、冒険映画らしいスケールを失わないあたりの音の統一感も見事な、映画音楽とはこれだというアルバムになっています。

マイ・フレンド・メモリー

二人の少年の友情物語を描いた感動作の音楽を「絶対×絶命」「ダーク・シティ」のトレバー・ジョーンズが手がけました。オープニングは、アイリッシュ風のパーカッションにのせてハーモニカとギターが歌いはじめ、そこへホイッスルとバイオリンがメインテーマを奏でていきます。シンシナティの街並みをバックにこの音楽が流れるあたりにこの映画の味わいがあります。ギターやピアノのソロなど、全体に静かなタッチの音が多いです。この辺りの細やかな音と対照的に、要所要所をオーケストラとコーラスがうたいあげるメリハリのある音が聞き物です。ロンドン交響楽団がバックに厚みのある音をつけています。アイリッシュ風あり、活劇調あり、聖歌風あり、ジャズタッチありと色々な音が入っていますが、その各々がマッチするシーンが本編の中にあるのですよ。サントラCDを聴いて映画を観ると、そのうまさを再認識できると思います。そして、スティングの歌う主題歌がまたいいんですよ。これは映画とは離れた既製曲を持ってきたのではなく、スティングがトレバー・ジョーンズの音楽をベースに作詞したものだそうです。「勇者フリーク」の主題歌になっているこの歌が、街を闊歩する二人のバックに流れるシーンが泣けるほどいいのですよ。

スモール・ソルジャーズ

ジョー・ダンテ監督の、文字通りおもちゃ箱ひっくり返したような映画の音楽を、名匠ジェリー・ゴールドスミスが担当しました。この映画の中にはゴールドスミスのスコア以外に、80年代の音を入れてまして、「War」とか「Love Is a Battle Field」(おお、パット・ベネターだ!)なんて懐かし気分になってしまったのですが、ゴールドスミスのスコアは戦争映画色の濃いものになっています。オープニングのマイナー風のマーチなんて、彼の「パットン大戦車軍団」を思わせるシリアスなものですが、それが転調して、静かな町を描写する音楽になるあたりは、シンセをオーケストラの1パートとして使いきるワザも含めて職人芸のお見事さです。また、歴史劇のパロディ音楽みたいのやら、「ジョニーの凱旋」やら、CDには未収録ですが、「パットン大戦車軍団」のパロディやら、音楽的にオアソビの要素が多い作品です。

ジェリー・ゴールドスミスの世界

H10年の暮れは、彼の来日コンサートで、サントラオタク、もとい、サントラファンは大騒ぎだったのですが、それに先立つこと3ヶ月前に、東京芸術劇場でゴールドスミスと、ジョン・ウィリアムスの作品の演奏会があり、その中でゴールドスミスの曲だけをピックアップして1枚のCDにしてしまったのがこれです。演奏は神奈川フィルに東京コスモポリタン合唱団で、御大のコンサートでは演奏されなかった「スーパー・ガール」「スウォーム」「オーメン(!!!)」が聴けるというなかなかにすごいCDになっています。「オーメン」は以前シティ・オブ・プラハ・オーケストラがカバーしていたのと同じ構成なので、多分同じ譜面を使っているのでしょうが、こちらの音もなかなかの迫力です。こういうCDが正規盤として、店頭に並ぶようになったことをまず喜びたいと思います。「猿の惑星」や「スウォーム」がライブで聴けるとはいい世の中になったものです。

プレイズ・モリコーネ

以前から輸入盤が出ていて気になってはいたのですが、今回日本盤が出たということでご紹介します。トリオロジーというグループによる、エンニオ・モリコーネの作品集です。バイオリン2、チェロ1というトリオで聴いた感じは現代室内音楽という感じです。収録作品は「ウエスタン」「ミッション」「マッダレーナ」「荒野の用心棒」「アタメ」などなど全12曲が入っています。前衛的な味わいはタートル・アイランド・ストリングス・カルテットのような感じですが、さすがモリコーネのエモーショナルな曲をベースにしているだけに、ドライになりすぎない音としての潤いが感じられます。確かにモリコーネの作品の中には完全に前衛サウンドともいうべきクールな音もあるのですが、ここでの選曲はあくまで、メジャーなものからで、その曲を弦楽トリオの音にすると古風さと前衛的なものの中間の不思議な味わいがあります。特にメロディラインが有名な「ウエスタン」「チ・マイ」あたりが面白い聞き物になっています。ちょっと、知らないで聞いていて「ん、これモリコーネじゃん」と気がついてビックリという感じのサウンドは、BGMとしても面白い1枚です。弦楽三重奏とか普通聞いていて退屈なことが多いと思われている方(私もそうでしたが)にオススメします。聞ける音楽のジャンルが広がるかもしれません。


今回ご紹介のアルバムはすべて日本盤が出ております。

そんなわけで、ちょっとサントラもの、細々と営業いたしておりますので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ジャックナイフ
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