夢inシアター
採れたて情報館/No.70
ジャックナイフのちょっとサントラ'98年11月その2
今月も新作と再発売ものでご機嫌をうかがいます。
■始皇帝暗殺
コン・リーの美しさと歴史スペクタクルが四つに組んだ重厚なドラマのサントラを手がけたのは「さらばわが愛/覇王別姫」のチャオ・チーピンで、中国交響楽団を使ってドラマチックな音を聞かせてくれます。メロディアスな旋律といったものはないのですが、ドラムがバーバリックに響く合戦シーンの音楽に始まり、男性コーラスや女性ボーカルを交えながら現代音楽風音作りになっており、大河ドラマの音楽を聞いているような趣もあり、低音弦楽器の使い方には伊福部昭のサウンドを思わせるものがありました。合戦シーンの勇壮な音楽にはバレエ音楽のような躍動感があり、音楽そのものがドラマしてるという印象です。ところがエンディングの曲は劇場公開版でもRing(これは台湾の女の子、彼女自身はメチャかわいいんだけど)の歌う主題歌(小室哲哉のプロデュース)に差し替えられてしまい、このサントラCDにも最後はこの歌が締めています。その曲自身は悪くないのですが、全体のバランスとしてはかなりいびつなものになってしまいました。全体をチーピンの骨太なサウンドで一本筋を通しているので、最後に繊細なバラードを流されると、「営業上」とか「事務所の都合」なんて言葉が頭をよぎってしまいます。
■アンツ
ウッディ・アレンが葺き替えをした主人公の働きアリがいつの間にかヒーローになっちゃうというCGアニメの音楽を「ライアー」のハリー・グレグソン・ウィリアムスと「フェイス・オフ」のジョン・パウエルという、いわゆるハンス・ツィマー一派の2人が共同で手がけました。「ライアー」「フェイス・オフ」も音楽としてはなかなかの聞き物でして、ちょっと期待させる組み合わせではあったのですが、その出来栄えは期待を裏切らないものになっていました。まず、ジャズタッチで奏でられる主人公のテーマがチャーミングでそこはかとないペーソスを運んできます。そして、アップテンポで描写されるアリの王国のテーマがセカセカとしたアリの国の雰囲気をうまく出しています(ちょっとロシアっぽい音を交えているのはなぜ?)。ここでもビッグバンドジャズのタッチがきっちりときまって、そのバックにラテン系パーカッションを加えて、一種無国籍風の混沌としたサウンドに仕上がりました。とはいえ、要所要所の盛り上げは抜かりなく、キチンとオーケストラを鳴らして、クライマックスはなかなかに感動させてくれます。
■アベンジャーズ
歌のコンピレショーンものはかなり前から店頭にあったのですが、ようやっとスコア盤が出ました。映画自身は、「昔の常連さんならわかるよね」の気分で作られている節があって今一つだったのですが、音楽は「ターミナル・ベロシティ」などのジョエル・マクニーリーが担当しました。オープニングからして、昔の007シリーズを思わせる、適度に重くてスタイリッシュなサウンドが期待させます。低音弦とブラスにエレキギターを加えてサスペンスあふれる音作りに、イギリス映画らしいユーモラスな味わいを加えて、全編にわたってリッチでゴージャスという感じの音が聞かれます。そして、クライマックスもドラマチックに盛り上げて、画面がちょっとさびしい分を音で見事にカバーしております。この盛り上げ方は最近のアメリカ映画らしい、ノンストップアクション風にSFタッチを加えたスケールの大きな音になっています。
■トゥルーマン・ショー
ジム・キャリーが熱演した近未来風コメディ風不気味ドラマの音楽を担当したのは、バーカード・ダルビッツという人で、日本ではこれが最初のお目見えかしら。トゥルーマン・ショーの紹介番組のナレーションから始まる不思議なアルバムなんですが、ダルビッツの音楽はパーカッションとシンセサイザー主体で、どちらかというと無機質的にドラマをサポートしています。ところが妙に印象に残る曲があちこちに登場します。これが追加音楽としてクレジットされている(いわゆるミニマルミュージック=反復音楽で有名な現代音楽家)フィリップ・グラスの曲なんですよ。それも必ずしもこの映画のために作曲されたものばかりとは限らないで、「ミシマ」などの既製曲も他のオリジナル曲と同じ扱いで収録されているのです。また、「トゥルーマン・ショー」というテレビ番組のBGMとして使われているらしい曲も収録されておりまして、こちらはエモーショナルに「虚構のドラマ」を盛り上げています。グラス自身がドラマの音楽担当者として登場し、美しいピアノソロを聴かせる「Truman Sleeps」が印象的です。ショパンのピアノ曲(ロマンス)とかヴォイチェフ・キラールの曲も収録されていますし、ダルビッツとグラスの曲が入り組んだ構成になっているアルバムなのですが、音の統一感はあります。アルバムのプロデュースはダルビッツと監督のピーター・ウィアーの共同となっていますから、この音楽の使い方は、監督のウィアーの意向が相当入っているのではないでしょうか。でも、流して聴いていて、「ん、これは?」と思う曲を確認するとみんなグラスの曲なんだよなー。
■ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
何を今更のセルジオ・レオーネ監督、エンニオ・モリコーネ作曲の名作(と、書きながら、私はこの映画未見です。)のスペシャル・エディション盤が発売になりました。従来のアルバムに4曲追加されてまして、組曲とか未使用テーマ曲というのまで入っていますから、モリコーネのファンの方は要チェックです。ピアノでテンポを刻みながら、フルートやオーボエが物悲しいメロディを奏でていきます。なんてたって「アマポーラ」が有名なこの映画ですが、やはりモリコーネのストリングスあっての名曲だなあって改めて聞き惚れてしまいます。また、ザンフィルによるパンフルートのテーマがまた切ないのですが、これもバックのストリングスが音に厚みを加えて、さらにストリングスが前面に出てくるところで盛り上がるところが素晴らしいです。そして、モリコーネの常連さんであるエッタ・デル・オルソによるコーラスの美しさまで、モリコーネワールドがぎっしりと詰まったアルバムです。この再リリースを機会にまた、テレビの再現ドラマ(誰かの半生とかちょっと泣かせる類のもの)でまた使われるのではないかしら。
「始皇帝暗殺」と「トゥルーマン・ショー」は日本盤が出てます。「アンツ」も多分日本盤が出るのではないでしょうか。
ジャックナイフ
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