夢inシアター
採れたて情報館/No.66

ジャックナイフのちょっとサントラ'98年10月


今回も新旧とりまぜて、サントラもののご紹介です。

プライベート・ライアン

スピルバーグの究極の戦争映画の音楽を手がけたのは、定番ともいうべきジョン・ウィリアムスです。ところがこの映画はエンディング以外はほとんど音楽の存在に気づかないくらいドラマのインパクトが強いです。一方の音楽自身も、いつもよりも地味目で主旋律といったものはほとんど顔を出さず、全編に渡ってひたすら低くうなるように鳴り続けています。音楽そのものが感情のうねりを表現することなく、ひたすら戦場の荒廃した様を静かに描写していますする音楽になっています。トランペットやホルン、ドラムの響きが軍隊ものの雰囲気を運んできますが、むしろストリングスの重さの方が印象的です。メインテーマは第二次大戦の兵士に対する鎮魂の響きなのですが、そこに「アメリカの正義」への自信が感じられるあたりに、この映画を単なる悲劇にしていない視点を感じました。

マーキュリー・ライジング

ブルース・ウィリスが自閉症の少年の命を守るFBI捜査官を演じた映画の音楽を手がけたのが、007シリーズのジョン・バリーです。さぞやアクション映画の音楽になっているかと思いきや、これが「マイ・ライフ」や「ダンス・ウィズ・ウルブス」を思わせる、しっとりとしたオーケストラサウンドの要所要所に不安な和音を付け加えた、5秒聴いたらすぐにわかる、いかにものバリー節になっています。少年のテーマがフルートで、捜査官のテーマがサックスで奏でられ、そこに浮かび上がる人間の絆のようなものを音楽で見事に表現しました。最初、CDで聴いたときは「何だ、毎度のバリー節じゃねえか」と思っていたのですが、映画を観てそのパワーを改めて思い知らされ、もう一度CDで聴き直して唸ってしまいました。

ダーティ・ハリー・アンソロジー

クリント・イーストウッドが演じた当たり役の一つ、ダーティ・ハリー・シリーズは全部で5作作られまして、第3作のジェリー・フィールディングを除いて、あとはラロ・シフリンが担当しました。そして、やっと1,2,4作から選び抜かれたサントラCDが出ました。うーん、うれしいぞ。もともとはジャズ畑でさらに南米音楽の素養もあるシフリンは「ブリット」「燃えよドラゴン」で有名ですが、「ダーティ・ハリー」も代表作の一つです。パーカッションを駆使したサスペンスフルなスコアが彼の得意とするところで、特に第1作のメインタイトルが聞き物です。インドのシタールのような音にエレキギター、ドラムが絡み、要所要所にビッグバンドジャズの音がかぶさると、さらにストリングスが現代音楽風に鳴って、これは圧巻です。大体70年代の映画音楽というと、今聴くといかにも70年代だなってわかってしまうところ多いのですが、これは90年代でも十分に通用する音になっています。それは、音の緻密さによるところが大きいと思います。あるときはエレキギターが全面に出て、次の瞬間にはストリングスが主旋律をとり、そして次の瞬間にはジャズ・コンボに変っているという音の組み立てが見事です。
最近はあまり映画音楽の新作を聴かなかったシフリンですが、ジャッキー・チェン主演の「ラッシュ・アワー」が待機中とのこと、このころのパワーをもう一度聴かせて欲しいです。

グリード

予告篇からすると腹ぺこ深海エイリアンが船客を食いまくるモンスターホラーの音楽を「LAコンフィデンシャル」の名匠ジェリー・ゴールドスミスが手がけました。深海ものというと彼にはかつて「リバイアサン」という快作があったのですが、今回はティンパニをガンガンならした1曲目からして、どうも活劇もののようです。映画は未見なのですが、低音ブラスにシンセサイザーがからむあたりはいかにもモンスターな音作りでして、そしてストリングスにシンセサイザーをアクセントに鳴らすあたりは「リバイアサン」を彷彿とさせるものがあります。静かな曲はほとんどなくて、闘いとモンスター描写をミックスさせた、おどろおどろな活劇音楽が聞き物です。

マスク・オブ・ゾロ

今年の企画モノ大賞とも言うべき「リターン・オブ・タイタニック」がまたバカ売れのジェームズ・ホーナーが手がけたチャンバラ・アクションの映画は、スペインが舞台だけにフラメンコギターから始まり、そしてなぜか尺八が聞こえるというホーナーらしい音作りです。同じスペインが舞台だからか、ミクロス・ローザの「エル・シド」を思わせる音もあってなかなか楽しいアルバムになっています。いかにもチャンバラ映画でございというタッチは「タイタニック」よりはのびのびとした音楽になっています。

「ダーティ・ハリー・アンソロジー」以外は日本盤があるはずです。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp