夢inシアター
採れたて情報館/No.59

ジャックナイフのちょっとサントラ'98年8月


またまた月があらたまりましてのサントラものでございます。今回は新旧とりまぜてのご紹介。

アンナ・カレーニナ

不幸な女の不倫の結末、トルストイ原作の物語にオリジナル曲ではなく、チャイコフスキーの「悲愴」交響曲をメインにロシア音楽をつけました。音楽監督サー・ゲオルグ・ショルティの指揮によるセント・ペテルブルグ・フィルハーモニックの演奏で悲劇を重厚に盛り上げています。アルバムの構成は単に「悲愴」を流すのではなく、ドラマの構成にそって使用された部分を順番に流していき、その曲目にきちんとドラマの劇伴としてのタイトルをつけています。その合間に挿入される「白鳥の湖」「ロシア聖歌」といったものもドラマの順番にそって並んでいるので、既製曲のアルバムですが、キチンとドラマを追えるサントラCDとなっています。チャイコフスキーの入門盤としても面白いですし、映画を観た方にとっては「悲愴」がドラマに見事にはまっていることを再確認できます。エンドクレジットでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第一楽章が高らかに鳴り響くところが、ちょっと意表を突かれてしまいました。

ガタカ

何だか妙に暗くて重苦しい近未来SF映画でしたけど、一歩間違うと作者の一人よがりに陥る危険をはらんだあやうげな内容の物語でもありました。それをきちんとドラマとして盛り上げたのは、このマイケル・ナイマンの音楽あってのことだと思います。絵的には淡々とした空間が描かれるところへ、ナイマンのうねるようなストリングスがエモーショナルな空気を運んでくることによって、血の通った人間のドラマが成立しているという感じです。この映画の中では音楽は、映像を支えているというよりは、五分と五分で渡り合っているのです。映像が死の静寂を運んでくるのに対して、音楽は人間の感情のほとばしりをドラマチックに描きます。逆にここまで音楽に託してしまった本編の監督の潔さもたいしたものだと思います。音楽的な評価もさることながら、映画を御覧になると、この音楽がどれだけドラマの部分をしめているか、ドラマの多くを語っているかを実感できると思います。

シティ・オブ・エンジェル

メグ・ライアンとニコラス・ケイジによる人間と天使のラブストーリーのサントラCDは前半10曲はU2,ジミ・ヘンドリックスなどのコンパイレーションです。そして、後半4曲(それでも20分弱)に「イングリッシュ・ペイシェント」のガブリエル・ヤールのスコアが入っています。歌ものの方ではアラニス・モリセッティの UNINVITED とピーター・ガブリエルの I GRIEVE が印象的でした。でも私としての聞き所はヤールのスコアの方でして、重厚なストリングスから入って美しいコーラスへとつながっていく天使達の描写がまず聞き物です。マイケル・コンバーティーノの「愛は静けさの中に」を思わせる浮遊感のあるストリングスには心をどっかへ持っていかれるような気がしまして、ヒロインの描写部分の生き生きとした音との対象が見事です。でも、聞いてるうちになんとなく切なくなるような胸をしめつけられる気持ちになってくる音楽の美しさは、夜のBGMとしてはちょっとヘビーかもしれないけど、なかなかにいい感じです。

ウィッシュマスター

ゲロゲロメイクと三つの願いを合体させた、妙にアンバランスだけど結構面白いホラー映画の音楽を手がけたのは「シッシッハッハッ」のフレーズでその筋の方には有名な「13日の金曜日」シリーズのハリー・マンフレディーニです。この映画でも、小編成のオーケストラながら、いかにもホラー映画でございという、おどろおどろな音楽を聞かせてくれます。また、この映画の内容に合わせて、単なるホラー音楽でなく活劇調の音楽も交えて、なかなかに達者な音作りになっています。とはいえ、ストリングスやホーンによる衝撃音の連打には、やはり13金の人だなあって感じです。映画のほうが、恐怖と笑いの中間の線を走っているのに、音楽だけは律義に恐怖に徹しているというところがなかなかに面白いと思った次第です。こういう映画でもサントラCDが出るんだぜというところでご紹介しました。

リプレースメント・キラー

チョウ・ユンファとミラ・ソルビノ主演のハード・アクション映画の音楽をハンス・ツィマーの補佐的な仕事が多かったハリー・グレグソン・ウィリアムスが担当しました。明確なメロディラインはあまり出てこないのですが、シンセサイザーにパーカッションをからませ、スピード感を出す一方でオーケストラも鳴らして重量感を出すというアプローチはツィマーのやり方に近いものがあります。しかし、アクションシーンと思しき曲に様々なパーカッションをならしまくるあたりは、厚みより鋭さを前面に出しています。映画を未見なのですが、この音楽からして典型的なアクション映画であろうことは察しがつきます。しかし、CDジャケットの裏写真が仏像から後光が射しているというケッタイなもので、また奇怪なアジアの登場する映画じゃないかなあっていやな予感もします。


8月はまだ「スクリーム2」「ムーラン」などが控えていますけど、本日はこのへんで。
今のところ、「ウィッシュマスター」以外は日本盤が出ています。
ジャックナイフ
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