夢inシアター
採れたて情報館/No.58

ジャックナイフのちょっとサントラ'98年7月


夏休みを前にして色々と映画が公開されていまして、なかなかに聞き物サントラも出回っていますのを、ちょっとご紹介。

もののけ姫

ビデオが売れてるそうですが、その横にサントラCDもきっちり並べてありました。売れるのかな、やっぱり。音楽は宮崎駿や大林宣彦、北野武作品などを多くてがけている久石譲が担当し、有名な主題歌を米良美一(めらよしかず)が歌ってヒットしました。東京シティ・フィルハーモニック管絃楽団を熊谷弘が指揮した、音としても豪華版のサントラです。やはりメインテーマのスケールの大きさが印象的です。有名な主題歌の方は子守り歌のような使われ方をしているせいか、ドラマの中ではあまり強い印象を残さないのですが、CDで聞いてみると、主題歌のメロディがあちこちで顔を出していることに驚かされます。CDだけ聞くとちょっと音楽が前へ出過ぎなんでないかいという印象も受けてしまうのですが、どうしてどうしてこの重厚な音に負けない絵をアニメで作っちゃったのですから、宮崎駿という人はすごいです。

コレクター

変態誘拐モノの音楽を「ネル」「グース」のマーク・アイシャムが手がけました。サントラCDには前半4曲が挿入曲で、後5曲がアイシャムのスコアという構成になっています。全編に低音のドヨーンという効果音が流れる映画の中で、音楽もシンセサイザーがメインで要所要所に現代音楽のオーケストラが絡んでくるという典型的なホラー映画の音楽になっています。こういう映画でも職人的なうまさを発揮するアイシャムだけに、ハイテンポなパーカッションなどでスリルを盛り上げるのに成功しています。明確なメロディラインを持たない音楽だけに好き好きが別れるとは思いますが、狂気を帯びた音作りのうまさはお見事だと思います。

ライアー

二転三転するストーリーの面白さで知的興奮を呼ぶ一編の音楽をハリー・グレッグスン・ウィリアムスが手がけました。これまではハンス・ツィマーとの共作で「ザ・ロック」「ブロークン・アロー」などを手がけ、単独クレジットではチョウ・ユンファの「リプレースメント・キラー」が待機中という、これからの人のようです。オープニングは静かなサスペンスタッチで、ピアノとストリングスの音楽がスリリングな予感を運んできます。その後も全編舞台劇のような動きの少ないドラマを、ストリングス中心の音で静かにサポートしています。この物語にしては、意外と厚みのある音をつけているのが印象的です。前述の「コレクター」が狂気を運んでくる音なら、こちらは不安な正気を奏でる音とでも申しましょうか。

オスカーとルシンダ

18世紀のオーストラリアを舞台にした悲恋ロマンの音楽を「ザ・プレイヤー」「若草物語」のトーマス・ニューマンが手がけました。彼独特のおとぎ話のような音から始まり、コーラス付きのメインテーマへつなげていくオープニングがまず聞き物です。オーケストラ音楽がメインですが、ニューマンらしい小編成による幻想的なサウンドもたっぷり盛り込まれ、彼の音楽のおかげで、浮世離れした主人公二人のちょっぴりおかしくもちょっぴり哀しい物語が、ベッドサイドストーリーのような気分で語られていきます。そして、要所要所に流れる聖歌のようなコーラスがまた不思議な透明感を運んできます。あらためてCDを聞き直すと、この映画の持つ一種独特の雰囲気は、この音楽からきていることがよくわかります。

レインメーカー

コッポラ監督が、マット・デイモン、クレア・デーンズのフレッシュコンビで撮り上げた法廷ドラマの音楽を手がけたのは大ベテラン「大脱走」「エイジ・オブ・イノセンス」のエルマー・バーンステインです。オープニングのジャズタッチが効いていまして、全体をハモンドオルガン、ピアノ、ギター、トランペットといったソロの楽器に小編成のオーケストラを絡ませていくという方式で、音楽としてはあくまで控えめにドラマをフォローしています。ささやかな人間のドラマをいつくしむような音楽は、映画の中よりもCDで聞き直して、初めてそのお値打ちがわかるという感じでしょうか。アメリカのメンフィスという地方都市を描写するのに、こういう音楽があるんだよなあってあらためて感心してしまいました。多分、CDを聞いてこういう音楽が鳴っていたかなって思う方は結構いるのではないかしら。それこそ、いぶし銀の底力といったところです。

LAコンフィデンシャル

「タイタニック」の呪いか、ずっと前から予告篇は流れていたけど、なかなか実物にお目にかかれない、犯罪刑事ドラマらしい、この作品の音楽は、「追跡者」「エア・フォース・ワン」と作品が続いているジェリー・ゴールドスミスが手がけました。暴動シーンに流れるという一曲めが、パーカッションとストリングスが吠えまくるテンション高い曲から始まると思いきや、トランペットソロにオケが絡んで、彼の「チャイナタウン」を彷彿とさせるジャズタッチに転調するという何だか期待させる導入です。他の曲も静と動のめりはりも十分にサスペンスとメロドラマの両面からドラマをサポートしているようです。久々にゴールドスミスが硬派のドラマに巡り会って思う存分やりましたという感じで、このCDは聞き物です。ジャズと現代音楽とのコラボレーションがばしっと決まった会心作と申せましょう。予告篇で流れるティンパニの連打がきちんとCDでも確認できた時はゾクゾクしました。


今回は「オスカーとルシンダ」以外は日本盤を確認してます。
ジャックナイフ
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