夢inシアター
採れたて情報館/No.57
ジャックナイフのちょっとサントラ'98年6月その2
今月は色々とサントラ盤のラッシュ状態で、サントラものの第2弾でございます。
■追跡者
「逃亡者」の追っかけ屋ジェラード警部を主人公にしたアクション映画の音楽を手がけたのが、最近やたらと名前を見るジェリー・ゴールドスミスです。シンセサイザーをリズムボックスのように使って、そこへオーケストラのダイナミックな音を乗せてサスペンスを盛り上げていきます。とはいえ、今回は地味めのアンダースコアに徹したようなところがありまして、明確なテーマもあまり聞こえてきません。スチュアート・ベアード監督の前作「エグゼクティブ・デシジョン」でも控えめな音作りでしたが、ゴールドスミスの持ち味は場面を上回るテンション高い音をつけるところにあるので、今回のはちょっと物足りないような印象を受けてしまいました。その中では、サスペンスに徹した'Following Chen'(中国領事館から容疑者を尾行するシーンの曲)が印象的でした。
■ディープ・インパクト
地球の危機を描く人間ドラマの音楽をてがけたのが、「タイタニック」で波にのるジェームズ・ホーナーです。今回は画面のスペクタクルに比べますと、音楽はおとなしめでして、いつものホルンとピアノの定番の音以外はあまり耳に残らないのが残念です。と、いうよりこのサントラCDがダイナミックレンジが大きすぎるのか、静かな曲だとほとんど聞こえないんですよ。ところどころでバンとなるオーケストラの音に音量を合わせておくと、半分くらいは「え? 鳴ってるの?」って感じです。「タイタニック」でめ一杯メリハリのある音を書いたホーナーにしては、全体に淡々とした印象でした。
■グラスハープ
20世紀前半のアメリカの田舎町でのささやかな愛の物語。この映画に静かなやさしい音をつけているのが、パトリック・ウィリアムスという人。フルートをメインにしたテーマが時計の止まったかのような草原の空気感を運んできます。そして、要所要所のドラマチックなところを小編成のオーケストラでメリハリをつけました。ですが、メインとなるのは、フルート、オーボエ、ピアノにストリングスが絡んでいく静かな旋律です。パトリック・ウィリアムスという人はもともとジャズ畑の人でして、映画音楽も70年代に色々と手がけています。ともかくも心安らぐ音楽でして、映画の余韻を楽しむには最適のアルバムです。こういうのをハートウォーミングな音と言うのでしょう。どういうわけかウィンダムヒルレーベルからサントラCDが出ています。
■ザ・フライ 1&2
いやはや日本盤でこんな企画のサントラCDが出ようとは。80年代の終りに公開された「蝿男の恐怖」のリメイクとその続編がカップリングされての発売です。第一作のほうは、「羊たちの沈黙」「ビッグ」のハワード・ショアがロンドン・フィルハーモニックをめ一杯鳴らした力作でして、続編は、当時は若手のクリストファー・ヤングがミュンヘンのオーケストラを使ったこれまた重厚な音楽です。とにかく、どちらもテンションの高いドラマチックスコアでして、通して聞くとなかなかの聞き応えです。最近の映画音楽が軽すぎて物足りないとお思いの方は是非一度聞いてみて下さいまし。個人的には、ヤングによる続編の静かな旋律の部分がお気に入りですが、ショアのクライマックスの究極のラブストーリーの部分もまた絶品です。
■THE MONSTER MOVIE MUSIC ALBUM
以前にもご紹介させていただいた、シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニックによる映画音楽シリーズですが、今回はずばりモンスター映画でして、まず頭6曲がなんと伊福部昭のゴジラ組曲です。アメリカ版「ゴジラ」公開の便乗企画なのでしょうが、選曲がまたマニアックでして「ゴジラ('54年版)メインタイトル」はともかく、その後が「三大怪獣地球最大の決戦」「怪獣総進撃マーチ」「メカゴジラの逆襲」「怪獣大戦争マーチ」「ゴジラ('54年版)エンディング」というのがゴジラオタクにはたまらんです。特に「ゴジラ、エンディング」はコーラス付きですからね。ライナーノーツの解説もうなづけるところ多いですし、非常に伊福部サウンド丁寧に扱っているという印象です。サントラよりもモンスター映画らしいハッタリをきかせているってところが向こうの人の解釈なのでしょう。その他にもマリオ・ナシンベーネの「恐竜百万年」とかジェリー・ゴールドスミスの「恐竜伝説ベイビー」なんて珍しいのもあり、また、「キングコング」'33年版、'76年版、さらに「キングコング2」までと押さえるところはきっちりと押さえてあってなかなかに楽しめる1枚です。
■HEART OF THE OCEAN(ジェームズ・ホーナー作品集)
企画モノということでこれもご紹介。「タイタニック」のヒットのおかげの発売でしょうが、ベスト盤とはちょっと違う、ジェームズ・ホーナーの映画音楽集です。この人本数は多いです。「タイタニック」のようなスペクタクルから、「レジェンド・オブ・フォール」のような大河ロマン、「フィールド・オブ・ドリームズ」のような感動もの、さらに「スタートレック2」のようなSFまで、その守備範囲は広いです。このCDには上記作品の他「ウルフェン」「コマンドー」のような初期の作品から「ブレイブハート」「アポロ13」といった最近作まで、サントラはないのですが、それなりに聞ける音になっています。「タイタニック」で彼の名前を知って興味を持たれた方には入門盤として結構いいのではないでしょうか。
■KAMEN&HOTEI ギター・コンチェルト
これは、映画音楽ではないのですが、ついでにご紹介。「ダイ・ハード」「陽のあたる教室」「ウインター・ゲスト」で映画音楽でも有名なマイケル・ケイメンが、エリック・クラプトンのために書いたギター・コンチェルトを日本の布袋寅泰のギターで演奏したというものです。バックにはネイザン・イースト、レイ・クーパーといったロック畑の人間に、ナショナル・フィルハーモニック・オーケストラがついたもので、ロックサウンドをオーケストラの重厚な音がバックアップしています。これはケイメンの映画音楽に近いものがありまして、特にデビッド・サンボーン、エリック・クラプトンとのコラボレーションで音楽を提供している「リーサル・ウェポン」シリーズなどの音はこのスタイルと言えるのではないでしょうか。
サントラオタク向けには「クルール完全盤2枚組」とか「007リビングデイライト曲目追加盤」といったものもあるのですが、今回はこのへんで。なお、「追跡者」「ディープ・インパクト」「ザ・フライ 1&2」は日本盤が出ています。
ジャックナイフ
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