夢inシアター
採れたて情報館/No.55

The Diary of Anne Frank
The Diary of Anne Frank

-アンネの日記-

1998年5月7日 ミュージック・ボックス劇場にて




出演者

アンネ/Natalie Portmanフランク氏/George Hearn
フランク夫人/Sophie Haydenマルゴ/Rachel Miner
ファン・ダーン氏/Harris Yulinファン・ダーン夫人/Lori Wilner
ペーター/Jonathan Kaplanデュッセル氏/Austin Pendleton
ほか


あらすじ

第二次世界対戦中ナチの占領下にあったアムステルダムで、13歳のユダヤ人少女アンネは、両親と3歳違いの姉のマルゴに囲まれて、恵まれた学生生活を送っていたが、ある日ナチス親衛隊からマルゴへの呼び出し状が来たのをきっかけに、こういう事態が起こった時のためと、かねてより両親が用意していた「隠れ家」へ移り住む事になった。

場所はアンネの父が勤める会社の3階にある、本箱でカモフラージュされたドアの後ろの部屋と、それに続く4階であった。ここにアンネ一家4人と、同じくユダヤ人のファン・ダーン一家3人、そして歯医者のデユッセル氏の総勢8人が、強制収容所送りの恐怖と戦いながら、息の詰まるような生活を始めたのであった。

狭い空間と限られた物資を巡る争い、人間同士の軋轢などなど小さな社会でおこる様々な出来事を、年頃の少女らしい鋭い感性で、友達に当てた手紙という形式で日記にしたためながら終戦を待ちわびるアンネであったが、この「隠れ家」生活が2年にもなろうかという8月、この生活はゲシュタポによって終止符が打たれたのであった・・・



海外ではどうしても言葉の壁があるので、ストレート・プレイはあまり観ない・・・否、中々観る事ができないのですが、有名な「アンネの日記」なら多くの人がそうであるように、成長期に一度ならずその物語に触れているし、あのナタリー・ポートマンの演技が直に観られるならば、良いお土産話になるかもしれないしと、動機は至って単純なものでしたが、半額チケット売り場でチケットを購入して、そこからいくらも離れていない劇場を目指しました。

ミュージック・ボックス劇場。名前の感じからすると、賑やかなレビューやボードビルみたいな出し物を想像してしまい、純然たる「芝居小屋」という風ではありませんでしたが、歴史を感じる古い建物の内部はどこも手入れが行き届いていて、こじんまりとしたお芝居をじっくりと楽しむのには最適の、とても居心地の良い劇場でした。観客の中には中学か高校生と思われる一団もいましたが、上演作品のせいなのか、ディズニー・ミュージカルを観に来ていた子供達ほどうるさく騒ぐような事もなく、年配の男性の一人客などもいたりして、ここからも何かしらの落ち着きが感じられました。

客席に入ると、幕なしの舞台上にはアンネ達が2年間も暮らしていたという「隠れ家」が、既に舞台一杯に設定されいて、実際自分がその隠れ家に招待されているような錯覚に陥ってしまいましたが、お芝居が始まるにつれて、その錯覚はさらに強くなっていくのが分かりました。何故なら、役者さんたちの芝居がとても自然体で、まるで映画でも見ているかのような近さで、こちらに伝わってくるからなのです。芝居を評して映画のようだというのは、普通ならあまり誉めた表現ではないのですが、舞台でリアリズムばかりを追求すると、演技がちまちまして客席に届きにくくなってしまうし、客席に伝えようと思えば、どうしても過剰演技になってリアリズムからは離れてしまう。そのあたりの絶妙なバランスが、観客との自然な同化を呼んでいたような気がします。

ナタリー・ポートマンは現在高校生になるそうですが、きりりと引き締まった硬質の美少女に成長した彼女が演じるアンネは、まさに適役でしょう。思春期特有の、誰も解ってくれない症候群(?)から生じるやり場の無い怒りや、母親との確執、無邪気な喜び、そして常に危険と隣り合わせの生活からくる、言い様の無い恐怖といった不安定な心の動きを、演技なのか本人の資質なのかは分からないのですが、とても良く表現していたと思います。彼女を観ていて、言葉は解らなくてもこういう感覚は万国共通なんだなぁと改めて感じた次第ですが、他にも夫婦間の争いと和解とか、ファン・ダーン夫人の華やかだった娘時代の思い出の毛皮のコートを、お金のために売らなければならなくなった時のこだわりとか、思わず涙を誘うような場面が幾つもありました。

ただ、決定的に日本人と違うのではないか、と思わせられる部分もありましたね。日本人同士の集まりだったなら、嫌な事、争い事が生じても、非常時だから我慢しようという方向に行くと思うのですが、この人たちは良く自己主張すること! 集団でやっていくには、心の中でウジウジするのがいいのか、言いたい放題がいいのかは、すぐに結論は出せませんけれど、多分 おゆう がこの集団の中にいたなら、きっと胃潰瘍にでもなってしまうのではないかしら・・・と、言葉不自由ななりに、こんな事を考えながらの観劇となりましたが、最後に一人生き残ったフランク氏によると、総勢8人のうちの殆どの人が命を落としたのが、それぞれに連行された収容所が、英、米、ロシア軍の手で開放されるわずか数日前の事だったようで、全く胸の潰れる思いです。

ところでこの「アンネの日記」の舞台ですが、確か日本でも数ヶ月前に、奥菜恵と草刈正雄のキャストで上演されていたと思うのですが、こちらはどんな舞台だったのでしょうか? 再演があれば、ぜひ見比べてみたいと思っています。

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