夢inシアター
採れたて情報館/No.47
ジャックナイフのちょっとサントラ'98年5月
■マッドシティ
現代のマスコミの狂気を描く作品ですが、音楽を担当したのが「プレイヤー」「若草物語」のトマス・ニューマンでして、ノイジーなギターサウンドから、パーカッション、シンセサイザーが加わって、前衛的な現代音楽を聞かせてくれます。感情とかはすっとばかして、ひたすら、非人間的な街の雰囲気描写に終始し、その非情なサウンドは効果音のごとく映画をサポートしています。劇場でどのくらい音楽が鳴っているのか意識して観ていたのですが、実際ほとんどかすかにしか音楽は聞こえてきません。
■スターシップ・トゥルーパーズ
ポール・バーホーベン監督による悪意に満ちた戦争コメディ。画面で血沸き肉躍れば、音楽もご同様、「コナン・ザ・グレート」「暴走特急」などでパワフルな音を作ったベイジル・ポレドゥーリスが、見事な戦意高揚音楽を作りだしました。フルオーケストラはブラス群をブンブンと鳴らし、シンセサイザーで若干のSFっぽさも出してはいますが、基本は戦争映画の勇ましさを前面に押し出します。グロか滑稽に流れてしまいそうな画面をきっちり戦争映画のトーンにまとめあげることができたのも、この音楽あってのことです。そして、前面に出るブラス群をバックでストリングスがきっちりサポートして厚みのある音を作り出しています。
■絶体×絶命
病院を舞台にした異色サスペンスを「エンゼル・ハート」「死の接吻」のトレバー・ジョーンズが、正攻法のちょっと陰にこもったスリラー音楽をつけました。オーケストラの音にシンセサイザーで厚みを加えて、病院という独特の空間の怖さをうまく伝えています。シンセサイザーの音によって、病院を神経を逆なでするような空間に変えてしまうあたりの音作りがお見事です。彼のおなじみの、パーカッションやストリングスのダンダダンというリズムを作るパターンがじわじわとくる恐怖サウンドになっている一方、活劇部分は金管からストリングスまでフルオーケストラを鳴らすし、「春の祭典」を思わせるスケール感で迫ります。この音楽が聞けるなら、音響設備のいい劇場へ行きたくなるという1枚です。
■十二夜
シェークスピアのラブコメ(こういうと実も蓋もないですけど、ホントにそんな感じ)の音楽をてがけたのはショーン・デイビイという人。プログラムによるとシェイクスピアの舞台音楽をいくつも手がけている人でして、ここでもオーケストラを使って、格調ある音作りをしています。そんな中で、道化のベン・キングスレーが歌う部分がなかなかに魅力的でして、オープニングの第一声は彼の語りのような歌で始まります。特にラストのエピローグで、時の流れのはかなさを歌った曲がなかなかに聞き物です。ただ、全体を流れる明快なテーマがないのがちょっと不満ですが、時として冒険映画のようであり、時として恋愛モノのラブ・テーマを奏でるという、劇をサポートすることに徹した音楽としては一級品なのでしょう。
■ナイトフライヤー
この映画、昨年ひっそりと公開されてそれっきりになっているスティーブン・キング原作のホラー映画です。こういう映画でもサントラ盤が出るのだということでご紹介させていただきます。私自身はこの映画は未見なのですが、映画自身の評判もいいようです。音楽を手がけたのがブライアン・キーンという人で、私はこの人の名前を見るのは初めてです。ピアノのアルペジオから始まってそれにシンセが絡み、さらにストリングスと木管が不安な旋律を奏でていきます。このじわじわと来るスリラーサウンドというのはある意味では定番なのですが、キーンはそれに不安と孤独のイメージを丁寧に積み重ねています。後半からは、弦の高音部や衝撃音によるショックサウンドも登場しますが、全体としては落ち着きのある音にまとまっています。派手じゃないけどこわそうな音楽の一つのサンプルです。
■企画モノ、再発モノ
最近輸入盤店へ行くとかつてのホラー映画の復刻完全サントラ盤のようなものをよく見ます。ダリオ・アルジェント監督の一連のホラー映画のサントラが完全盤と銘打ってそれまで未リリース曲も入れて売ってます。「サスペリア2」「サスペリア」「ゾンビ」「フェノミナ」「インフェルノ」なんてのが、かつてのアルバムより曲数も多いのが出回ってます。それぞれにサントラオタクの私にはうれしい企画ですが、例えば「サスペリア2」なぞは、昔の方が、何でもかんでもぶちこんだ完全盤より、アルバムとしての完成度は高いです。(完全盤は通して聞くのはしんどいですもの)まあ、まず昔リリースのアルバムを買って、それで物足りない物好きは完全盤もいかがでしょうっていうところなのでしょう。
アルジェントほどメジャーじゃない、イタリアのゲロゲロホラー職人ルチオ・フルチ監督の「サンゲリア」「サンゲリア2」「コンクエスト」「墓地裏の家」「ビヨンド」「マンハッタンベイビー」「地獄の門」「幻想殺人」「マーダー・ロック」なんてのも、最近続々と出回っています。単独アルバムじゃなくてカップリングも結構ありますけど、この類の音楽を好きな人間が私の他にも結構いるらしいのですよ。変なの。
また日本盤も負けじとジョン・カーペンター監督の初期の2作品「ザ・フォッグ」と「ニューヨーク1997」を発売しました。どちらもシンセサイザーによるドヨーン、ビヨーン、ピコピコという効果音のような音楽なのですが、テーマがどちらも魅力的です。どちらもカーペンター自身が作曲もしています。
上記のアルバムの中では、ロックグループ、ゴブリンの出世作で、ジャズとロックがうまく融合した「サスペリア2」、キース・エマーソンの流麗なピアノが華麗な恐怖映像とマッチした「インフェルノ」、小編成ながら世紀末の恐怖感をうまく出したファビオ・フリッツィの「ビヨンド」、カーペンターによるテーマ音楽がムチャクチャかっこいい「ニューヨーク1997」あたりが聞き物です。
今回ご紹介した作品は、「マッド・シティ」と「スターシップ・トゥルーパーズ」は日本盤が出ていますが、他のものは未確認です。「絶体×絶命」はひょっとしたら日本盤が出ているかもしれないです。
ジャックナイフ
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