夢inシアター
みてある記/No. 205

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将軍の娘 エリザベス・キャンベル
将軍の娘 エリザベス・キャンベル

- The General's Daughter -

ちょっと変わった視点からの犯罪サスペンス、焦点が絞りきれないのが残念。

1999-11-15 東京 丸の内ピカデリー1 にて


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台はアメリカの陸軍基地、後1週間で退役するキャンベル将軍(ジェームズ・クロムウェル)の娘、エリザベス・キャンベル大尉が基地内で全裸で磔状態で死体となって発見されます。ブレナー捜査官(ジョン・トラボルタ)はレイプ専門のサンヒル捜査官(マデリーン・ストウ)と共にこの異常な殺人事件の捜査に乗り出します。彼女の家を捜索した二人は、彼女がかなり倒錯的な性愛趣味を持ち複数の男と関係していたことを探り出します。そして、彼女の上司ムーア大佐(ジェームズ・ウッズ)が何かを知っているらしいことを突き止めます。しかし、彼女をこのような死に追いやった人間は思わぬところに潜んでいたのです。

スターをみても、軍服で敬礼するジョン・トラボルタが写っているだけで、予告編を観るとどうやらレイプ絡みの犯罪もののようで、どういう映画なのか今一つ内容の見当がつきかねたのですが、本編を観て、なるほど売り文句が難しい映画だと思いました。ベストセラー小説をクリストファー・バートリーニと名匠ウィリアム・ゴールドマンが脚色し、「コン・エアー」で盛り上げ演出のパワーを見せたサイモン・ウェストが監督をしています。

見、猟奇殺人事件のように思える発端から、被害者の周辺を調査していくに連れて、彼女の意外で痛々しい過去が見えてくるのがドラマのメインストーリーとなります。この被害者を演じるレスリー・ステファンソンがなかなかの美形で、この映画の中でも才色兼備という設定が説得力がありました。事件の前に登場する彼女は大変生き生きとして魅力的な女性です。しかし、その裏にもう一つの顔があったのですが、さらにその奥に秘められた秘密があったのです。女性の軍隊へ進出ということの一方、その影には女性軍人に対するイジメや嫌がらせといったものがあるようです。この映画の中でも、軍全体の方針としてはどんどん女性を登用しようという方針がある一方、現場での差別は存在するような描かれ方をしています。そして、上の方針と現場の妬みの両方がエリザベスをズタズタにしてしまう部分がショッキングでした。

と、
こう書きますと、アメリカ軍ならではの特別なことのように思えてきますが、どっこい雇用機会均等法下の日本の会社でも似たようなものだということに気づかされます。無能な男性と、有能な女性がいたとき、これまでは男性であるという理由で、それでも男性の方が昇給昇進も優先されていました。ところが実力主義、機会均等が言われるようになってから、時として、少数の有能な女性が、多数の無能な男性より上の地位を勝ち取るようになってきました。それは、会社の幹部にとっては、会社の宣伝にもなるし、それによって会社のステータスが上がることもあって歓迎される向きもあります。一方、下っ端の多数の無能男性陣にとっては、嫉妬と羨望、ときとしてはイジメの対象ともなります。この映画のような悲惨な殺人事件に結びつくことこそなくとも、精神的な状況は日本もあまり変わらないのではないでしょうか。そう考えると、この映画の持つ視点は他人事でなくなってきます。

ころがこの映画はそういう興味深い視点を提供していながら、単なる犯人探しの方にドラマの核が移動していってしまいます。そして、ラスト近くでは、親子の確執へと話が移ってしまい、映画としてのまとまりはありますが、テーマを絞りこめなかったような印象になるのは残念でした。特に女性レイプ捜査官のマデリーン・ストウの扱いは被害者と対を成す存在だけにドラマに生かして欲しかったです。特に後半、彼女が捜査のために男性のシャワー室に乗り込んでいくあたりは、よく考えれば逆セクハラともとれるわけで、この辺りはもっと丁寧に描く必要があったと思うのですが、サイモン・ウェストはここをコミカルにまとめてしまい、最初の問題提示は何だったんだろうと思ってしまいました。

して、犯人探しのミステリーの部分はあまり面白い展開にならないんですよ。むしろ、彼女の過去の部分のミステリーがなかなかに見ごたえがあります。そして、脇を固めた面々が気になります。ジェームズ・クロムウェルは「ベイブ」のおじいさんから、権力側悪役まで演じる名優ですけど、今回は娘を失った父親でかつ秘密を持つ将軍という複雑なキャラクターを熱演しています。また、ジェームズ・ウッズが、いつものエキセントリックなキャラクターを押さえて渋い脇役としてドラマを支えています。改めてうまい役者さんだと再認識してしまいました。久しぶりに見たティモシー・ハットンは役どころが中途半端なのか演技のしどころがなくて気の毒でした。

告編で、トラボルタ「レイプか」と問うのに「もっと悪い」とウッズが答えるシーンがあって気になっていたのですが、この「もっと悪い」ものの正体が意外でした。そして、この正体を「レイプよりもっと悪い」ものと言える方が健全なのかもしれないと気がつくと、ちょっと考えさせられるものがありました。日本だったら、これは「レイプより悪い」とは認識されないような気がします。その正体は劇場でご確認下さい。

ーター・バーウェルの音楽が、南部民謡のような歌を交えてミステリアスな雰囲気作りに成功しています。また、シリアスな部分の重厚なオーケストラ音楽が、核を見失いそうになるドラマを見事に支えています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点0点0点 殺人ミステリーとしては今一つかな。
役者、音楽、撮影はマルです。
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