欲ボケじじいの話の筈が、美しい風景と音楽をバックになんとなくほんわか。
イルランドの海沿いの人口52人の小さな村、ここでも宝くじはお楽しみですが、どうやら誰かが特等を当てたらしいのです。じいさんその1ジャッキー(イアン・バネン)とその2マイケル(デヴィッド・ケリー)はそれを知って、みんなより早く当選者を見つけだして、そのおこぼれにあずかろうと画策します。挙句には、宝くじを買った人間をみんなホームパーティに招いて顔色をうかがおうとしますが、それでも誰だかわからない。そう言えばパーティに来てない奴がいた、ネッドだ。というわけで家を訪ねてみれば、ネッドは当たりくじを握り締めて昇天のご様子。どうやら、抽選のテレビ中継を観ながらおなくなりらしい。待てよ、この当たりくじをどうすると考えるジャッキーとマイケル、そうだネッドになりすませばいいんだ。かくして小さな村に、でっかいお金のささやかな騒動が持ちあがるのでした。
イルランドの海沿いの美しい風景の中で、じいさん二人が主人公で、かつ宝くじにまつわるコメディという何だかミスマッチな印象の一編です。ここに出てくるじいさんコンビは、じじいというほどやな奴じゃなくて、ご老体と呼ぶには元気で、オヤジと呼ぶほど脂ぎっていないという、いわゆるじいさん。特にジャッキーはなかなかのやり手じいさんで、宝くじ買った連中を招待してホームパーティを開いたり、ネッドの家を訪ねて行ったりで、ついに当たりくじを見つけだします。それを独り占めしようと一度は考えるのですが、ちょっとした紆余曲折から、村中を巻き込んでみんなで分けようというあたりから、話は面白くなってきます。
語の「黄金餅」みたいなオハナシですが、それほどエグい展開はありません。でも死体となったネッドの顔が幸せそうなのはおかしいと言ってこねくり回してみたり、ブラックな味わいもそこそこに、宝くじの調査員をいかにしてだますかということが物語の中心となります。マイケルをネッドということにして賞金をもらっちゃおうとことにして、とりあえずくじの確認まではクリアするのですが、その後、賞金がなんと680万ポンドもあって、かつ村の人にネッド本人であることを確認すると言われてじいさん二人はビックリ&頭抱えてしまいます。ばれたら刑務所行きだと奥さんに言われて困った挙句ジャッキーはある決断をします。それは、村中でその賞金を山分けしようというものです。村人も偏屈ばあさんを除いてみんな賛成です。
のあたりの展開は何だか都合よすぎるような気もするのですが、じいさん二人を欲張りじじいにしていないところにこの映画の味があります。また死んだネッドという老人が、非常に評判のよい、誰からも好かれる男だったというのもドラマの隠し味になっています。これがイヤミな因業オヤジだと遺産相続争いの様相を呈してくるのですが、ネッドがいい人だったおかげで、その宝くじの当選金を村人でかすめとっちゃうという物語も、ネッドなら許してくれるだろうということで、まるく収まってしまうのです。
た、一見、強欲に見えたジャックも賞金を52等分するというあたりに根は善人なのかなと思わせますし、村人も大金を手にして、みんな村を離れてしまうのではないかという危惧も出るのですが、子供の「みんな飲んじゃうから」という一言で片付くあたりも笑いを誘います。そして、唯一強欲ばあさんが登場してこの村ぐるみの賞金かすめとり作戦を密告してその賞金(実は52等分した額よりも多い)を得ようとするのですが、その結末は神様がつけてくれます。このちょっとブラックな笑える結末は劇場でご確認下さい。
イルランドの自然とケルト風音楽の美しさをバックにちょっとファンタジーのような味わいのドラマが展開します。何だかほのぼのとした後味が楽しい一品です。特に単に宝くじ当選者として登場するネッドが最後にもう一回登場くるあたりが、意外なおかしさと余韻を残しました。中高年が主人公で、宝くじが発端で、その当選賞金をめぐる物語なのが結構身近に感じられ、かつ展開は殺伐としないで、全体をユーモアでつつみ、最終的に元の木阿弥にもしないあたりが娯楽映画のツボをきっちりと押さえていると申せましょう。
本、監督のカーク・ジョーンズはCM出身で、今回が初の劇場映画だとのことですが、変に映像にこだわらない物語中心の映画に仕上げていて職人的なうまさを見せてくれました。役者は、ご老体コンビのイアン・バネンとデヴィッド・ケリーがうまさを見せて二人を愛すべきキャラクターに仕上げました。また、脇では、ジャッキーの奥さん役のフィオヌラ・フラナガンやジェイムズ・ネズビットという面々が間のおかしさで笑いをとっています。シネスコの画面にアイルランドの広々とした空間はよくマッチするようで、「ロザンナのために」のヘンリー・ブラハムのキャメラは自然光をうまく使ってファンタジックな絵作りをしています。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
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じいさんコンビのボケとツッコミが絶妙
出来すぎの話だけど映画だからいいじゃん
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