夢inシアター
みてある記/No. 201

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ディープエンド・オブ・オーシャン
ディープエンド・オブ・オーシャン

過酷な運命の中で細やかに描かれる一人一人の痛みと希望。

1999-11-11 東京 日比谷シャンテシネ3 にて


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人家族の次男坊が3歳の時、母親(ミシェル・ファイファー)の同窓会の会場で行方不明になってしまいます。大々的な捜査の甲斐もなく見つからずしまいで、夫婦仲はきまづくなるし、家庭はすさんでしまうのでした。それでも時はその傷を癒したかのように見えた9年後のある日、その次男坊がひょんなことから見つかるのです。これで一家揃ってハッピーファミリーかと思いきや、9年間のブランクは、そう簡単には埋まらないのでした。前の家族から引き離された次男坊は落ちこむし、兄との関係もうまくいきません。誰も悪いことしてないのに、こんなことになるなんて。果たして、この一家に希望の灯がともる日が来るのでしょうか。

語としてはかなりボリュームのある内容を、「告白」「恋に落ちて」など重厚なドラマに力量を見せるウール・グロスバードが演出しました。前半、子供がいなくなるあたりは、非常にドラマティックな展開を見せるのですが、その後の本筋、行方不明の息子が戻ってきてから後は、逆に非常に淡々とした演出でエピソードを積み上げるという普通のドラマと反対の構成をとっているのですが、その後半の淡々とした展開が大変見ごたえのあるドラマになりました。これだけの内容を2時間弱にまとめあげた脚本と演出の手腕は評価されていいと思いました。

ープニングではよくある家庭、でも何か問題ありそうな予感をさせて、次男坊失踪という大事件が発生します。取り乱す母親をなだめる父親、その後も、まるで魂が抜けたような母親に心を痛める父親と長男、ここでどうも長男がいつも置き去りにされているのが細やかに描かれます。この長男の幼年時代を演じたコリー・バックが抜群の名演技を見せています。母親が次男坊を失った悲しみから自分への愛情表現できないのを、理解しながらも傷つき、それでもやさしさを失わないあたりは胸を締め付けられるものがありました。それを単に、よく出来た息子さんでない一人の人間としての奥行きを出したあたりはグロスバードの演出力ではないかと思った次第です。

演のファイファーは、前半は弱い母親として登場し、後半は過酷な試練の中で成長した人間として登場してきます。しかし、主演というよりは、全体の狂言回し的な役どころで、各々の場面で周囲の人間を際立たせる役割のようです。そして、彼女を囲む人々が皆それぞれの痛みを抱えながらも希望を模索する様をエピソードを積み重ねて細やかに見せていきます。父親は、多少独善的なところもありますが、その強さがメロメロになってしまう母親を助けます。そんな父親を「グリード」などのトリート・ウィリアムスが抑えめに好演しています。また、見つかった次男坊の育ての親を演じたジョン・カペロスが少ない出番ながらいいところをさらいます。実直そうな父親というイメージで、突然自分の息子として育ててきたのを、実の親に返さねばならなくなるという役どころを愁嘆場を見せない演じきったのは見事でした。この映画は、登場人物が皆辛い思いをしているのですが、それを嘆き悲しむシーンを、ファイファーを覗いては見せないのです。ほんの一瞬のカットに万感の思いを込める演出が大変抑制のとれたドラマを作り出しました。

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年後の長男と次男を演じた二人も名演技を見せます。突然、新しい父親と母親が現れたことに戸惑いを隠せず、そして、育ての父親への想いが募る一方の次男坊をライアン・メリマンが達者に演じています。ちょっと出来すぎのキャラクターではあるのですが、その彼がこのドラマが語ろうとしてい希望を体現しているのです。また、長男役のジョナサン・ジャクソンが過酷な運命の中で翻弄される役どころを的確に表現しています。9年ぶりに再会した兄弟、でも弟はあまり当時の記憶は残っていません。一方、兄は弟がいなくなったとき、そしてその後の辛い記憶の延長線上にまだいるのです。兄には弟に引けめを感じ、弟は兄の9年間の辛い思い出は想像もつかないという、そんな二人が心を通わすことができるのか、この映画がラストに見せる希望は、出来すぎだよなあと思いながらも、そうあって欲しいとも感じるもので、そのあたりは劇場でご確認下さい。

の他では、行方不明になる次男坊を演じた男の子がすごくかわいかったり、刑事役のウーピー・ゴールドバーグが脇役に徹していい味を出していたり、ピアノをアクセントにした小編成オーケストラによるエルマー・バーンスタインの音楽がドラマをきっちりサポートしていたり、印象に残るところが多かった映画でした。

かし、他人の気持ちを思いやるというのは難しいものだと再認識させてくれる映画でもあります。特に自分が辛いとき、他の誰かも同じ思いをしているのかもしれないなんて、なかなか思いつきませんもの。この映画はその辺の事情をかなり、リアルに見せてくれます。事件そのものは極端でも、その心の動き、想いの行き違いといったものはなかなかにリアルなものがありました。そして、自分が辛くて他人の気持ちなんて構っていられないときでも、自分が邪険に扱っている相手が逆に自分のことを思いやってることもあるというお話でした。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点0点 脚本、演出、演技ともみな見事な映画の逸品。
子役の名演は「シックスセンス」より上。
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