夢inシアター
みてある記/No. 199

dummy
dummy

アナライズ・ミー
アナライズ・ミー

- Analyze This -

精神科医に駈け込んだマフィアのボス、手堅いメンツのコメディ。

1999-11-6 神奈川 平塚シネプレックスシネマ5 にて


dummy

く子も黙るマフィアのボス、ポール(ロバート・デ・ニーロ)は最近ちょっと変。何だか弱気になったり、急に胸が苦しくなったり、どうもおかしいってんで、精神分析医ベン(ビリー・クリスタル)のところに無理やり乗りこんできて、さあ治せとすごんだのですが、ベンだってそう簡単に治せるわけがない。それでも、ベンのアドバイスはポールは結構感激して、もう主治医扱い。でも、そこはマフィアのボスですから、何かというとベンを呼び出すもので、ローラ(リサ・クードロー)との結婚を控えたベンはたまりません。休暇中のローラとのベッドから誘拐同然に呼び出されていってみれば、「勃たなくなった、どうしよう」ですもの。しかし、ポールには実はそういう精神を病むだけの理由があるみたいです。ベンは無事マフィアオヤジのセラピーを終了させることができるのでしょうか。

優ロバート・デ・ニーロと才人ビリー・クリスタルの顔合わせというのが、ちょっと目を引くコメディです。監督が「恋はデジャブ」のハロルド・ライミスというのが微妙な感じなのですが、この人は役者としてなかなか飄々とした味わいが捨てがたい人です。「RONIN」では寡黙なプロフェショナルぶりが大変カッコよかったデ・ニーロですが、ここは凄みが空回りしてしまう精神障害のマフィアの親分を手堅くに演じています。変に軽妙な演技をしないで、マフィアのボスのまんまの上にちょっと変なキャラクターを載せたという感じなのです。一方のビリー・クリスタルの精神分析医というキャラクターはまさにはまり役と申せましょう。「ファーザーズ・デイ」でロビン・ウィリアムスと共演したときはアクの強さで負けてはならじと丁丁発止の掛け合いになっていたのですが、今回はどちらかというと控えめに、被害者の立場を演じています。とはいえ、あの独特の立て板に水のしゃべりは健在でして、演技的には、クリスタルがツッコミで、デ・ニーロがボケという感じになりました。

いうわけで、個性の強い二人が共演しているのにもかかわらず、変にくどくならないサラリとした口当たりのコメディに仕上がっています。「ゴッドファーザー」の話題なんてのも出てはくるのですが、パロディにはしていませんし、デ・ニーロのうろたえぶりもおかしくはあるのですが、リアリティの一線を超えるところまでデフォルメされていませんので、そういう意味では、バカコメディではない、まともなドラマになっています。このあたりは、ハロルド・レイミスの演出のさじ加減なのでしょうか。困ったやつであるデ・ニーロなんですが、アブナいオヤジにしなかったところにこの映画の面白さがあります。

れでも、ベンのことなんかお構いなしに、呼びつけては、ヤブだとけなしたり、名医だと持ち上げたりと、ポールの情緒不安定ぶりは、かなり困った奴ではあります。挙句の果てにはオンオン泣き出してしまうのですから、子供よりも性質が悪い。そんなポールに振り回されて、婚約者とも気まずくなっていくあたりのベンの右往左往ぶりが笑いをとります。

た、脇の役者では、ポールのボディガード役のジョー・ヴィッテレリがおいしい役どころとはいえ、いい味を出して好演しています。情緒不安定になっているボスを困ったという顔をしながらも思いやるあたりとか、ドタンバでベンに助けを求めるときに、自分ではバカだからダメだと言いきるあたりのおかしさなど、彼の存在で、ドラマに人情コメディの味わいも出ました。また、敵対するボスを演じたチャズ・パルミンテリも変に笑いをとるようなことをしておらず、きちんとヤクザの凄みを効かせているあたり、この映画を単なるドタバタにしていません。パルミンテリの「悪魔のような女」「ユージュアル・サスペクツ」などシリアスドラマの実績を壊さず、ドラマの中に取り込んでいるのが成功しています。それでも、どことなくおかしいという味わいはありますから、そのあたりのさじ加減がレイミスの手腕なのかもしれません。

語の核となるのは、ポールがなぜそんな精神状態になってしまったか、その原因探しの部分です。このあたりの展開がきちんとしているので、ドラマとしての奥行きが出ました。ここは相当シリアスな設定になっているのですが、ドラマ的にお涙頂戴風の展開にしなかったのが、好感を持てました。

かし、現代はストレスの時代だそうですから、こういう精神分析医も繁盛するでしょうし、その患者がヤクザだったりすることも十分考えられるご時世です。息が苦しくなったり、弱気になったり、考えてみたら思い当たる人も結構いるのかもしれません。そう言うときに精神分析医の門をたたくのは向こうでは至極当たり前のことになっているのでしょうが、日本ではまだまだ敷居が高いという感じです。それに、「ストレスだ」とか言われるだけに金を払うのは何だし、話してラクになることなら、パブやクラブに金つぎ込む方がいいでしょう。ただし、薬物療法の場合、医師の処方が必要だから、そのために医師の診断を仰ぐことはあるでしょう。とはいえ、神経症をクスリで治そうという発想もまだ定着していない日本で、この映画が切実なコメディになるにはまだ時間がかかりそうな気がしました。

トレスと精神分析がポピュラーになってきた現代というのはどういう時代なのかという気がします。例えば、戦中戦後の生きるか死ぬかの時代は極限のストレスがあったでしょうし、昭和30年代以降も今より生活レベルは低いし、食うに困る人も多かったはずで、その時代のストレスも今よりは大きかったのではないのかしら。昔はストレスに押しつぶされる人は、たくさんいたのだけれど認識されなかったのか、それとも、ストレスって衣食足りてから起こってくるものなのか、素朴な疑問なのですが、なかなか答えが見つからないのでした。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点0点0点 ライトコメディとしての手堅さがこの映画のいいところ。
その手堅さが物足りなくもあります。
dummy