夢inシアター
みてある記/No. 197

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ブロークダウン・パレス
ブロークダウン・パレス

- Brokedown Palace -

お気軽海外旅行が懲役30年になってしまった女の子二人の物語。

1999-10-31 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらいシネマ7 にて


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いころから大の仲良しのアリス(クレア・デーンズ)とダーリーン(ケイト・ベッキンセール)の二人が卒業旅行にハワイに出かけ、ちょっとタイまで足を延ばします。異文化と異宗教のタイで観光気分を満喫の二人、テッドというわけのわからん二枚目と知り合いになってすっかり盛りあがってしまいます。彼の誘いで香港まで行くことになった二人ですが、何とバンコクの空港で麻薬所持の現行犯として逮捕され、懲役33年の実刑判決を受けてしまいます。どうみても罠にはめられた二人ですが、どうすることもできません。バンコクに事務所を持つハンク(ビル・プルマン)が弁護を引き受けますが、結局彼女たちを救うことはできません。異国の刑務所で絶望的な状況にあるアリスとダーリーンですが、果たして二人は無事にアメリカへ帰ることができるのでしょうか。

国の地で、麻薬所持でつかまってしまうアメリカ人と聞いて「ミッドナイト・エクスプレス」を思い出すのは、そこそこの年がいっている人でしょう。あの映画は主人公が軽い気持ちで麻薬を持ち出そうとしてつかまるのですが、今回はどうやらウキウキ旅行気分の女子学生二人が、変な男にだまされて麻薬運びの片棒を担がされてしまったという話で、事情はちょっと違います。でも、結局は自分の国に帰ることもままならなくなってしまうことは同じです。タイという国をこの映画では発展途上国であり、仏教のお国柄でありながらも、警察内部にも不正はあり、麻薬に対する罰が、アメリカ人の感覚と比較にならないくらい厳しい国として描かれています。そして、アメリカ大使館もその内政にまでは干渉できないという、よく考えれば当たり前のことも描かれます。証拠が曖昧なまま裁判が行われ、その証拠も控訴後の査問会では紛失してしまっているというずさんな警察です。まあ、タイでなくとも、最近では神奈川県も警察は危ないみたいですから、ことさらタイを悪く扱っているという印象は受けませんでした。でも、正当な裁判の結果の懲役33年とは到底思われないのも事実です。

かし、そういう異文化をアメリカの正義と一致しないからと言って、ばっさり切り捨てることをしていないのが、この映画の見識です。郷に入らば郷に従えというのは、よく言われることですが、この映画でも結局はアメリカ流の正義というのは通用しないのです。ですから、タイは悪い国なのだという印象を与えてしまう可能性は確かにあります。それでも、タイに生きる弁護士の視点を入れることで、アメリカ人の持つ外国人への優越意識をかなり薄めるのに成功しています。でも、最終的には主人公を被害者にしてしまうのが、この映画の限界ではないかなという気がします。二人ともかなり踏んだり蹴ったりという目にあってしまうのですから、その境遇には同情してしまいます。特に親とか大使館から見捨てられたような状況になってしまうあたりの見せ方が印象的でした。

して、二人の友情ともいうべき絆を描こうとしているのはわかるのですが、今一つ釈然としない気分が残ってしまいました。それは、一体荷物に麻薬を入れたのがどっちなのかはっきりしてないように思えたからです。どうも、そこのところを明確にするのを避けてしまっているようなのですが、映画を観てる限り二人のどちらも麻薬を荷物に入れた覚えはないみたいなのです。そんなことはどうでもよくって、二人の間の友情こそが大事なんだというのは、境遇からすれば、わからなくもないのですが、ラストの後味がかなり曖昧なものになってしまいました。なかなかにシビアな結末を見せるのではありますが、なぜ二人がそういうシビアな選択をしたのか、その動機がよくわからないのは観客には不満です。

はいえ、全体として「告発の行方」「バッド・ガールズ」のジョナサン・カプラン監督は、肉親や国からも見捨てられてしまった二人の女の子の葛藤をていねいに描いて映画としてのまとまりは悪くありません。役者も、生意気そうなクレア・デーンズとおっとりお嬢様系のケイト・ベッキンセールがうまい対照を見せて好演していますし、ビル・プルマンはこれまで演じてきたキャラクターのイメージから海千山千の胡散臭い弁護士に見えないというのは今イチでしたが、後半損得抜きで二人を救おうとするあたりにいい味を出しました。

しも刑務所を出ることができなければ、そこの国の人間にならなければならない、自分の国を悪く言うのは慎めという、弁護士の言葉が印象的でした。それこそが生き抜くために必要な心構えなのでしょう。ところが、ラストのヒロインのモノローグは、そこのところを理解していないというのが面白いと思いました。確かにこの事件を契機に、ヒロインは成長したように見えますが、それでもまだまだ成長過程の中にいるのだというのは、意識的にそうしたのかどうかは置いておいて、ドラマとしてのリアリティを出しました。全体としてドラマが完結していないという印象も受けたのですが、それは、これが新しい物語の始まりとして位置付けられれば、納得できないものではありません。でも下世話な視点からすれば、海外でリゾラバ気分でキャピキャピしていると、とんでもないしっぺ返しを受けるという教訓でもあります。特にタイとか東南アジアは日本人観光客もたくさん出かけているところです。日本人の女の子だっておんなじ目に遭っている子もいるんじゃないかなって気がしました。日本みたいに何しても大目にみてくれる社会にいる女の子が、海外でとんでもないことして顰蹙かった挙句に逮捕されちゃうことって容易に想像つくあたりに、この映画の他人事でない怖さがあります。

ープニングは観光映画のような絵から始まり、後半の刑務所シーンのリアルな質感まで、ニュートン・トーマス・シーゲルの撮影は丁寧に光をすくいとっていて印象的でした。また、視覚効果でイリュージョン・アーツなど3つのチームがクレジットされていましたが、どのシーンが該当するのかわからないくらい、絵の統一感がとれていました。音楽は既成曲オンパレードですが、オープニングと中盤に流れる、デレリウムの「サイレンス」というナンバーが大変美しく印象的でした。スコア部分はデビッド・ニューマンが担当し、異国情緒というより、非日常的な雰囲気の音作りが成功しています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点0点0点 ラスト以外は非常に淡々とした展開なのが変わった味わい。
フィリピンで撮影したんですって、この映画。
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