夢inシアター
みてある記/No. 191

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迷宮のレンブラント
迷宮のレンブラント

芸術の秋にふさわしい、かもしれない贋作サスペンス。

1999-10-16 東京 日比谷シャンテシネ3 にて


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画の贋作で糊口をしのいでいるハリー(ジェイソン・パトリック)に大口の仕事がやってきます。レンブラントの未発表作を作れば50万ドルの大仕事を引き受けます。そしてパリに渡りレンブラントの資料を調べまわっているとき、マリエケ(イレーネ・ジャコブ)という美しい女性と知り合い、一夜を共にします。いよいよ絵が出来上がり、それをロンドンで権威ある鑑定家に見せることになります。その中になんとマリエケがいるではありませんか。そして、贋作の依頼人たちは彼の絵をオークションにかけようと言い出します。ちょっと待て、話が違うと、ハリーは絵を持って逃げ出すのですが、事態は殺人に発展してしまうのです。彼の絵は一体どうなるの?そして、ハリーとマリエケの顛末はいかに?

作の名人が巻き込まれた犯罪サスペンスを「ブルー・サンダー」「ニック・オブ・タイム」の娯楽職人ジョン・バダムが演出しました。舞台がニューヨーク、ロンドン、パリと豪華なのもちょっとリッチな感じですし、レンブラントがドラマの要になているあたりも、何だか芸術映画っぽいところもあります。贋作のノウハウもあり、また、芸術家の葛藤もあり、恋愛ものでもあるのですが、本筋は犯罪サスペンスというかなり欲張った内容の映画になっています。どの切り口からでも、それなりに楽しめる映画に仕上がっているのは、バダムの職人芸によるものでしょう。

術家の葛藤部分は、ハリーの父親をロッド・スタイガーが演じていまして、いい味を出しています。貧乏絵描きで結局幸福な人生を送ったようには見えないオジさんです。贋作を生業としている息子に、まっとうな道を行けと、意見をしても、何だか今一つ説得力を欠いてしまう、それでも息子が心配でならないというキャラクターを演じてホロリとさせる演技を見せます。ドラマの中で、もう少し丁寧に扱ってくれたらなあって思います。

愛部分は、「オセロ」「追跡者」のイレーネ・ジャコブが色っぽい知的美人を好演しました。最初は一夜限りのお相手だったのに、事件が警察沙汰になってくると、ハリーに拉致されてしまい、道連れにされてしまうという相当気の毒な設定なのですが、それでも、ハリーのことを愛してしまうという、考え様によってはかなり変わり者というキャラクターになっています。レンブラントの第一人者である美貌のヒロインという、才色兼備だけど、どこか頼りなげな風情が魅力的でした。

罪サスペンスの部分では、後半は法廷シーンがメインとなります。、ここではイアン・リチャードソン扮する検事が軽妙にドラマを盛り上げます。人を食ったような、どこかシニカルなオヤジがコミカルな味わいを見せて、ドラマにメリハリをつけました。また、犯人側の画商たちも、きっちりキャラクター分けされていまして、それがドラマの展開に生きてくるのが、バダムのうまさなのでしょう。脇の面々が多面的なドラマをうまく支えているという印象でした。

れだけに、主人公のジェーソン・パトリックが弱いのですよ。「スピード2」で役に立たないオマヌケヒーローを演じた彼ですが、今回もそれ以上のキャラクターを上乗せすることができなかったようです。典型的なヤンキーで、とても贋作という繊細な仕事をする芸術家には見えません。絵がうまいだけで、後はまるで共感を呼ばないキャラクターになってしまったのは、やはりミスキャストではなかったのかなって思いました。犯罪に巻き込まれる主人公としても、今イチ頭よさそうじゃないし、父親との葛藤も、セリフで語る以上の感情を表現できなかったようですし、何でこんな自己中心な奴に、聡明なヒロインがひかれてしまったのかが、どうにも納得できませんでした。

いうわけで、コアとなる主人公が弱いのが難点ではあるのですが、レンブラントも含めた脇の個性的な面々のおかげで、色々な側面から、楽しめる映画に仕上がっています。ヨーロッパ風サスペンスの音作りで、画面をきっちりフォローしたジョン・オットマンの音楽も聞き物です。

ジャックナイフ
64512175

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点0点0点 贋作を作るまでの段取りがなかなかに見物です。
主人公ダメでも結構面白いって不思議。
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