夢inシアター
みてある記/No. 189

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バーシティ・ブルース
バーシティ・ブルース

意外な拾い物のスポーツ青春もの。日本なら高校野球ネタなんだろうな。

1999-10-9 静岡 静岡ミラノ2 にて


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校生のジョナサン(ジェームズ・ヴァン・ダー・ビーア)は名門フットボールチーム、コヨーテズの補欠のクォーターバックです。このチームには既に名クォーターバックのランスがいるおかげで、ジョナサンはまるで出番なし。当のジョナサンもフットボールが全てという学校や社会の雰囲気が好きでなく、ランスがいるから、まあいいかの気分です。どうせ、フットボールで身を立てるつもりもないんだし。てなことを言ってたら、ランスが負傷、ジョナサンに出番がまわってきて、そこで彼は大活躍。でも、コヨーテズのコーチ、キルマー(ジョン・ボイト)は勝つことが全てで、選手のケアなんかまるで眼中にない独裁者、それでも30年の実績が物を言い、街の人間の誰も彼に文句一つ言えません。そんな中、チームは地区優勝決定戦に駒を進めるのですが、キルマーに対してついにジョナサンが......。

メリカ人のフットボール好きってのは聞いてましたけど、この映画の舞台となる田舎町では、子供はみんなフットボールをやるのが当たり前、そこで活躍できる人間がヒーローで、そこでダメな奴はダメ人間になってしまうみたいです。親もかつてフットボールをやっていて、子供にはスタープレイヤーになって欲しいと望み、名選手の親は、それがステータスシンボルとなる。コミュニティの価値観がフットボールに集約されているといって過言ではありません。30年のキャリアで22回の地区優勝という実績を持つキルマーのでっかい銅像が立っているくらいですから、たかがフットボールで済まされる世界ではないのです。運動神経の抜群に鈍い私は、こういうところに生まれなくてよかったとつくづく思います。

人公のジョナサンはうまいけど、別にフットボールで身を立てようとは思っていません。奨学金をもらって大学に進学し、学業に専念するのが望みです。「ルディ・涙のウィニングラン」の下手だけど熱心な主人公とは、まるで正反対なキャラクターです。一方、父親はずっとベンチを暖めている息子が不満でいつか試合に出て欲しいと思っています。要はフットボールでいいところ見せてくれれば、街で自慢の息子になるというわけでして、それが常識として成立するコミュニティなのが興味深いところです。最初はスタープレーヤーのランスの恋人だった女の子が、彼の負傷から、すぐにジョナサンに乗り換えようとするエピソードも妙にリアルでした。そして、なぜ彼女がそんなことをするのかを垣間見せるシーンもあって、フットボール中心の社会の悲喜劇を見せてくれます。(ついでに、使えるチョコレート・サンデーの作り方も教えてくれますが、それは劇場でご確認のほどを)

ともとは、フットボールでスターになるつもりなんかなかったのに、スター選手の負傷で頑張らざるを得なくなる主人公がめきめき頭角を現すというのは、ご都合主義的な展開ではあります。しかし、その結果、それまでクールに構えてきたのが、フットボールに対する興味や情熱が大きくなってきて、恋人とうまく行かなくなってしまうというのが面白いと思いました。まあ、普通なら、ここで恋人と決別ということになるのですが、そうならないあたりが脚本の妙と申せましょう。スター選手の代わりに試合で活躍した夜、自分は何も変わっていないのに、周囲の変化に戸惑う主人公を丁寧に見せるあたり、ブライアン・ロビンスは意外と細やかな演出で好感が持てました。

のコヨーテズは、キルマーというコーチが全てを牛耳っています。ヒザががたがたの選手に注射で無理やり試合に出しちゃうし、頭打ってフラフラの選手に休養も与えません。差別的な扱いもすれば、悪どい脅しもかけるという権力意識でチームを強引に引っ張っていくタイプ。それでチームが実績を上げているので誰も文句は言わない、そしてますますつけあがる。日本の、高校野球の名門校では、同じような監督がいるんじゃないかという気がしました。試合も勝つこと優先で、フェアでないことでも平気でやらせるので、選手には嫌われています。高校生だった松井に5連続敬遠を命令した相手チームの監督みたいな奴です。

ういう奴を野放しにしてしまうのは、要はフットボール至上主義のコミュニティだからです。ですから、彼に逆らうことは、コミュニティへの反逆であり、そのコミュニティを自分も含めて否定することになってしまいます。後半、主人公の幼なじみのデブが、キルマーにボロクソに罵倒され、自暴自棄になりかかるところが悲惨です。主人公の「たかがフットボールだ」という慰めの言葉も、凝り固まった価値観を揺るがすことができません。そうは言っても、やはり、それほど強くない人間は、他人の価値観に、自分を委ねてしまうしかないのかもしれません。この映画の主人公は強い人間ですが、それはフットボール選手としても優秀だったからの強さであり、だから既製の価値観の上に、自分の価値観、つまり自分にとっての大事なものを築くことができたのでしょう。

いぶんと小難しい物の言い方をしてしまいましたが、基本的に、これは青春ドラマであり、ハッピーエンドの物語で、頭を悩ます映画ではありません。それでも、この映画で描かれるコミュニティの有り様はなかなかに興味深いものがあったという次第です。「アナコンダ」「ヒート」では得体の知れないキャラクターを演じたジョン・ボイトですが、今回は「レインメーカー」「クロスゲージ」のような権力側悪役を憎々しげに演じきって貫禄を見せました。また、MTVの製作ということか、既製曲のオンパレードの音楽設計でしたが、要所要所をマーク・アイシャムの静かなスコアがきっちりとおさえています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点0点0点 主人公の弟が変なやつでかなり面白い。
期待しないで観れば、意外な拾い物かも。
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