夢inシアター
みてある記/No. 188

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永遠と一日
永遠と一日

凡人はこういう映画をどう楽しんだものでしょう?

Oct.3,1999 神奈川 関内アカデミー1 にて


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らの死期を感じつつある老いた詩人アレクサンドロ(ブルーノ・ガンツ)は、旅に出ようと決心します。彼の思いは1966年のある日の妻との幸せだった日に溯ります。そんな彼がアルバニア難民の少年と出会います。警察につかまりそうになったり、売り飛ばされそうになるところを助けたことで二人は一緒に一日を過ごすことになるのです。二人の共通点は明日への不安、それは恐怖というレベルまで高まっているのでした。二人は一体どのような明日を選択することになるのでしょうか。

リシャの巨匠テオ・アンゲロプロスの最新作だそうです。と言っても、私はこの人の映画を観たことがなくて、今回が初めてのアンゲロプロス作品ということになります。どうやら自分の老い先長くないと知った主人公のある一日を通して、明日という時間の捉え方を考えるという内容の映画のようです。と、言ったところで、今一つ実感が湧いてこない話です。文学的であり、かなり形而上的であることは感じるのですが、なんだか難しいっていう印象が先に立ってしまいます。この映画の予告篇を観たときも、なんだか敷居が高そうな気がしましたもの。ちなみに私は、いわゆる中年三流サラリーマンでして、日々の暮らしに鬱々とした日々を送っている凡人、或いはそれ以下の人種です。

わゆるこういう映画の観客にはふさわしくないのかもしれない私なのですが、それでも、映像的に、「おー、すごい」と思うところ多かったです。まず、1カットがものすごく長いということ、中盤で移動ショットで延々と見せる結婚式のシーンなんて見事を通りこしてあきれてしまいましたもの。そして、移動ショットが多いのに、確実に役者の芝居をおさえている撮影が素晴らしいのです。また、役者もその長回しを意識させない自然でかつテンションの高い演技を見せます。まるで群舞を見るようなカットもあり、映像詩という謳い文句も確かに言えてるかもしれません。

ラマの方なんですが、非常にゆっくり、大変静か。ハリウッドのハイテンポな映画とは対極にある映画です。しかし、その時間の流れに身を委ねて映像と音楽の美しさを楽しむことができれば、なかなかの見応えのある映画と申せましょう。でも、登場人物を自分に重ねあわせることが難しくもありました。何せ、詩人で独り言が詩になってしまうのですから、ちょっと感覚的な接点が見つかりません。少年の方は、とんでもない悲惨な目に遭っているので、この子の世界を理解するのも難しいなあって気がします。だって、いわゆるホームレスで警察に追われるは人身売買につかまっちゃうは、国境越えでは、地雷原を命懸けで渡ってきたという、うかつに同情するのもはばかられるほどの悲惨な話なのです。でも、ドラマはそこには深入りしません。少年の未来への不安と怖れを見せるのみです。しかし、その未来も私からは想像もつかない過酷なもののようです。

いうわけで、並の人にはとっつきどころが難しい映画なのですが、そんな中で気になったのは、主人公の奥さんとのやりとりです。彼女はすでにこの世になく、昔の手紙とアレクサンドラの回想の中にしか登場しません。どうやら、彼女は主人公を心から愛していたようなのですが、一方彼は、彼女の想いきちんと応えていなかったようなのです。下世話な世界ですと、仕事にかまけて家庭を顧みないダメ亭主ということになるのですが、こういう映画の中では、主人公を正面切って責める人はいませんし、主人公自身は奥さんからベタ惚れ状態のようです。うーん、何だかうらやましいなあーなんて考えてしまうところで、こういう映画の見方から、外れてしまっているのかもしれません。

人公が詩人の故事にならって、言葉を買うまねをするあたりがちょっと面白かったです。その結果が「よそ者」「すごく遅い」とかいう単語です。でも、人間死ぬ前なら、もう少し普通の言葉をさがせよという気もします。言葉の持つ意味よりも、その耳触りのようなものが大事なのかもしれませんが、うーん、詩人の考えることはやはり凡人には理解できません。でも、理解できなくても、ま、いいかって気分になれるのが、こういう敷居の高い映画のいいところでもあります。世界のどこかにはこういう人もいるんだねってことで、だからどうってこともないっていう気分です。

はいえ、主人公と少年が夜中にバスに乗って、街の中をまわり、色々な人と乗りあわせるあたりは、ファンタスティックなエピソードとして心に残るものがありました。本筋を追うと、「なんじゃい、これは?」と思うところがある一方、部分部分に妙に気になるところのある映画になっています。ちょっと切なげなテーマ音楽も気になりますし、目の付け所によっては結構評価が変わる映画ではないのでしょうか。

も、何だかんだ言っても敷居が高いんですよ、こういう映画は。コンビニで哲学書を立ち読みしているような気分になってしまいました。たまーにはこういうのも観て、娯楽映画に染まった頭を大掃除した方がいいのかもしれませんけど。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
△ 2点2点2点1点0点 2時間14分が長く感じられましたから。
何とか1600円のモトはとりました。
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