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The Haunting
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「たたり」のリメイクというよりは、キャスパーのシリアス版みたい。
Oct.2,1999
神奈川 平塚シネプレックス7
にて |
の看護に人生のほとんどを費やし、その母も失った孤独な女性ネル(リリ・テイラー)は、ある大学の研究室の、不眠症の調査という企画に乗ります。その調査が行われるのが、古びた異様に立派なお屋敷です。外装が立派なら、内装はやたら子供や動物の像がおかれた奇妙な空間です。この調査を企画した教授(リーアム・ニーソン)には実は別の目的がありました。それは、この非日常の異様な環境で、人間の恐怖についての実験をしようとしていたのです。被験者はあと二人の合計三人で、教授のそんな目論見などつゆ知らない彼らなのでしたが、この後、ネルを中心に怪異な出来事が起こり始めます。え、このお屋敷って本当に出るの? それじゃあ、恐怖の実験どころじゃないでしょうに......。
のむかしの伝説の恐怖映画「たたり」(原作シャーリー・ジャクソン「山荘奇談」)のリメイクだそうです。この「たたり」はビデオで観た時、すごく怖かったという記憶があります。ちょっと精神を病んだヒロインがだんだんとお屋敷に取り込まれていく、一方お屋敷には何か得体の知れないものがいるようなのですがその実体が不明というあたり、説明不足で不親切と言えなくもないのですが、その不親切なぶん伝わってくる恐怖は相当なものでした。これといったSFXもないのに、ロバート・ワイズ監督は感じる恐怖を演出していました。今度のリメイクは「スピード」のヤン・デ・ボンが監督していまして、「スターシップ・トゥルーパーズ」のフィル・ティペットや、ILM,KNBイフェクツグループやらが参加したSFXテンコ盛りの映画になっています。
ンセプトとしては、お化け屋敷のパターンです。「シャイニング」「家」「ヘルハウス」といったお化け屋敷ネタの映画はありますが、今回は何と言ってもお屋敷のセットが素晴らしいです。豪奢な作りのなかにあちこちに置かれた肖像画や彫刻の不気味なこと、また明るめの画面でもディティールに粗を見せない重厚な作りは見事でした。それを空気感も合わせて切り取ったカール・ウォルター・リンネンロウブの撮影も見逃せません。
の物語がただのお化け屋敷にならないのは、ネルという女性がだんだんとこのお屋敷に取り込まれていく過程にあります。リリ・テイラーが熱演するネルは、これまでの人生を彼女の母親の介護に追われ、母親の死んだ後は今度は住んでいた家を追われているという、踏んだり蹴ったりの状況にあります。苦労した人生の結果、家族もいない孤独で精神的に弱っている彼女は、非常に感じやすい状態でこのお屋敷にやってくるのです。そして、他の人間より過剰にこのお屋敷に反応して段々とおかしくなっていくように、周囲の人間には見えてくるあたりがこの映画の見所になっています。子供の霊を初めて目撃した彼女が、うれしそうに微笑むあたりが圧巻でした。その彼女の心の動きを軸にしてドラマを構築していれば、心理ホラーとしての見応えが出たでしょう。しかし、残念ながら、後半は完全におばけ屋敷スペクタクルとなってしまい、折角のテイラーの熱演も生きてこなかったのが惜しまれます。
ペクタクルの仕掛けの部分は、ディズニーアニメを観るような展開になってきまして、派手さは十分ですが、あまりリアルとは申せません。子供の彫刻が動き出すあたりまでは怖さもあったのですが、屋敷を支配するパワーの正体が視覚化されてしまうと、何だか作り物っぽくなってしまいました。前半はそこそこ心理スリラーの趣もあったのですが、クライマックスはあまり怖くないのですよ。ヤン・デ・ボンはあまりホラー映画は得意ではないのか、前半の恐怖の積み重ねとか、後半の畳み込みといったホラー映画の定番をうまく取り込めていないという印象でした。この映画はアメリカのレイティングでも、RではなくPG−13という比較的おとなしめのもので、直接的な残酷シーンやエロティックなシーンもほとんどありません。ひょっとしたら、刺激的な演出、恐怖の表現といったものはワザと避けたのかもしれませんが、それでは、「たたり」を観た人間からしたら物足りないという気もしました。
さというのは、ビックリさせる以外に、じわじわと来るものがあります。この映画でも、恐怖につながりそうな仕掛けが色々とあるのにかかわらず、それを生かしきれていないというところがありました。ネルの境遇や、鏡の間とか合わせ鏡といった仕掛けがもっと生かされたら、かなり怖くなったのではないかという気がします。また、妙に因果関係をはっきりさせたことで、怖さが薄れてしまったところがあります。例えば、「リング」より「リング2」が格段に怖かったのは、恐怖の実体を説明しきらなかったという点が大きかったと思います。ネルという女性がなぜお屋敷に取り込まれてしまうのかという点は明確でないほうがよかったのです。ひょっとしたら、精神的にズタズタになった彼女の方が、この浮世離れしたお屋敷に逆に憑りついたのかもしれないという余地を残して欲しかったような気がしました。
いぶケチをつけてしまいましたが、それでも技術的には最高レベルの出来栄えと申せましょう。特に音響の移動効果は見事で、画面の外の音を使った演出は聞き物です。デジタル音響の映画館で観るのと、普通のドルビーステレオの劇場とではその効果には格段の差が出ると思いますので、観る劇場を選んだ方がよいでしょう。とりあえず、見所聞き所がいっぱいの映画ですので、御覧になって損はないと思います。音楽のジェリー・ゴールドスミスはホラー映画にしてはやさしい音をつけて、全体をまろやかにまとめています。そういうまろやかな味わいが、良くも悪くも、この映画にファミリーピクチャーの趣を与えています。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
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怖さはほどほど。ドリームワークスの映画だから?
ヒロインの設定がなかなか面白いです。
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