夢inシアター
みてある記/No. 183

dummy
dummy

シンプル・プラン
シンプル・プラン

- A Simple Plan -

悲しくて怖い、身につまされる、一級品のスリラー。

Sep.18,1999 神奈川 平塚シネプレックスシネマ6 にて


dummy

メリカの田舎町の大晦日は雪に覆われていました。飼料屋に勤めるハンク(ビル・パクストン)は兄で失業中のジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)と父親の墓参りに出かけます。なぜかジェイコブの友人ルーも一緒です。そんな3人が帰り道に不時着した小型飛行機とその中にパイロットの死体、そして440万ドルの入ったバッグを見つけます。ジェイコブとルーは着服しようと言いますがハンクは良心の咎めと、その結果、刑務所行きになることを怖れて反対します。でも、結局は押し切られてしまいますが、ともかく金はそれが安全で自分達に疑いがかからないことを確認するまでは、ハンクが預かるということにします。それがハンクにとっての妥協案であり、事は平穏無事に運ぶ筈だったのですが。

「死
霊のはらわた」「ダークマン」などのホラーもので知られるサム・ライミ監督が、原作者であるスコット・B・スミスの脚本を得て、大金を拾ったばっかりに人生を狂わせてしまう連中のドラマを作りました。最初の設定からして、欲にかられた人間のドロドロとしたやりとり、いわば「宝くじの一等が当たった結果の家族崩壊」のような展開を期待していたのですが、その期待はいい方に裏切られました。ハンクとジェイコブの兄弟の確執を軸にした、重厚な人間ドラマが展開する、久々の重量感のある心理スリラーに仕上がっています。

ず、人物設定が見事です。一応職もあり、大学も出て、美しい妻(ブリジット・フォンダ)がいて、それなりの田舎のインテリ風であるハンク、一方、失業中で生活保護のお世話になっていて、女性とキスしたこともないパっとしない兄ジェイコブ。金を巡る最初のやりとりは、ハンクが良心の声に従おうとするのですが、ジェイコブやルーがそんな固い事言うなと丸め込みます。ともかくも、いやいやながらも、金の着服を納得するハンク。ところが、事態がおかしな方向へ進み始めると、今度は、ジェイコブが良心の呵責に絶えられなくなってきます。すると、ハンクはジェイコブを叱咤激励し、何とか事が露見しないように動きだすのです。

生で失うものもないジェイコブは自分なりの良心に正直に生きようとします。しかし、彼の行動は時として軽率で、トラブルメイカーであるのは事実です。観ていて、このバカのおかげで善良なハンクが窮地に追い込まれていく度に、「こいつがいなけりゃいいのに」と思いましたもの。ところが段々と事態が悪化するに連れてハンクの善悪の境界がおかしくなってしまいます。最初の小さな罪を隠すために次々と大きな罪を重ねてしまうハンクの姿は何だか他人事とは思えない怖さがありました。坂を転がるように事態が悪化し、最も理性的で事態を収束できる筈のハンクが、ジェイコブよりも罪の意識に鈍感になっていくあたりが圧巻です。

た、事態を悪化させるもととなるプランを提案するのが、ハンクの妻であるところも印象的でした。どうしていいかわからなくなってしまうハンクに、助け船を出すのですが、それが余計目に悪い結果になってしまうのです。出番は少ないですが、このドラマの黒幕とでもいうべきハンクの妻を演じたブリジット・フォンダが見事でした。常識人でありながらも、金の魅力には無理に抗うことはせず、無意識のエゴが夫を窮地に追い込んでいく、そんなヒロインを説得力のある演技で演じきりました。

かし、何と言っても、主人公二人の演技が素晴らしかったです。ビル・パクストンは、これまで「ツイスター」「マイティ・ジョー」で主役を張ったことがあるのですが、実は竜巻や巨大猿が主役で、彼は助演者でした。もともと、押し出しの強いタイプではない、受けのキャラクターの役者さんです。しかし、今回は本当に主役のですが、演じている役どころは、普通の犯罪ドラマなら脇のポジションにいる人間です。このあたりにドラマ作りの面白さがあるように思いました。普通なら、脇で全体を押さえる位置にいるべき人間が、事態をどんどん悪化させてしまうのです。自ら、どんどん悪いほうにはまり込んでしまう主人公をパクストンは普通の人として演じきったあたりが見事です。また、兄や友人のルーを見下したようなところがあったのが、ラストでそのプライドがボロボロになるのも、見物です。

方の、ジェイコブを演じたビリー・ボブ・ソーントンは、相変らず作品毎に印象が大きく違う人ですが、ここでは、トロいけど、そこそこの善意と良心の持ちあわせを持ったキャラクターを熱演しています。いわゆる愚兄賢弟の典型みたいな兄弟で、お互いに対するそこそこの愛情はあるけど、どうにも越えられない溝ができてしまっています。でも、最後で見せる彼の行動が圧巻です。トロくて弱い人間の生き様が観るものの胸を打ちます。弟の足を引っ張るようなことばかりしているように見えて、後から考えると、弟より兄の方が行動に一貫性があったと気付かされるのも、ソーントンの好演があってのことでしょう。

の中の犯罪ドラマというと「ファーゴ」を思い出しますが、こちらは普通の人がどんどん罪の領域にはまりこんでいくあたりが、身近な怖さを運んできますし、その後味の悪さも格別です。発端はどうってないことがどうしてこんな結末になるのか、その時、そこに自分がいたらどういう選択ができるのか、考えてみると、ぞっとする映画です。そして、単に怖いだけで終わらない悲しみに満ちたエピローグが、この物語を一級のドラマにしています。ダニー・エルフマンの音楽は、メインテーマが不気味な前衛音楽なのですが、ドラマ部分は小編成のオケで、控えめに悲劇の音を奏でて、画面を静かに支えています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点1点 血生臭い展開は、娯楽とは言い難いけど、おすすめです。
ビル・パクストンってうまい役者さんだったのね。
dummy