夢inシアター
みてある記/No. 178

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エリザベス
エリザベス

- Elizabeth -

英国の歴史の1ページかもしれないけど、私にはちょっとお化け屋敷。

Aug.28,1999 平塚 シネプレックス8シネマ4 にて


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6世紀、ヘンリー8世なきあと、異母姉メアリーが女王として君臨したものの、カソリックとプロテスタントの対立で国は真っ二つで、エリザベス(ケイト・ブランシェット)もその政争に巻き込まれていきます。メアリーの健康が優れないことからその後継はエリザベスしかいません。しかも、メアリーがカソリックなのに対してエリザベスはプロテスタント。しかし、ついにメアリーの死後、エリザベスは25歳にして女王の座に就きます。恋人のロバート(ジョセフ・ファインズ)はいるものの、ウィリアム卿(リチャード・アッテンボロー)は彼女に政略結婚による国と彼女自身の身の安全を進言します。しかし、恋と政治はそう簡単に両立できるものではなかったのです。

ープニングがなかなかにショッキングです。髪を切られ、火あぶりになるプロテスタントたち、それを冷酷に見つめるカソリックの司教たち。何やらおどろおどろしい雰囲気が、後のドラマを予感させます。実際、物語は波瀾万丈、恋あり、陰謀あり、裏切りあり、殺人あり、戦争ありと人間のいるところに必ず付きまとう悲劇がすべて盛り込まれていると言っていいでしょう。イギリス映画ながら、インドのシェカール・カプールが監督しているのは、面白いと思います。史実よりもヒロインの人間に迫る物語のようでいて、どこかさめているという味わいはカプールの演出によるものでしょう。

リザベスという女王は、自ら処女王と名乗って生涯独身を通した人だそうで、その生き方から男じゃないかという噂もある人なのだそうです。しかし、この映画の中で彼女は、聡明で、恋に生きようともする女性として登場してきます。しかし、ラストで彼女は女であることを捨て「イングランドと結婚する」と宣言します。そこに至るまでの彼女の心の動きはちょっと捉えにくいという印象でした。特に野心を持っているようにも見えませんが、かと言って女王に君臨することはうれしくもあり、さらには政治を執ることが楽しいようにも見えます。そして、彼女は押し寄せてくる運命に逆らうことなく、かつ、したたかに生き抜こうとします。このあたりは、観る方によって受け取り方が色々でしょうが、ともかくも彼女は陰謀渦巻く王室の中で、まずは、生き延びることを第一に考えていたようです。そして、女王になれた、権力を得たということで次なるステップを踏み出します。積極的に何かを勝ち取ろうとするのではないのですが、押し寄せてくる運命に対して、それを何とか、かわして行こうとします。

ころがある事件を境に彼女は、自分自身から決別し、女王エリザベスとなろうと決心します。私は、このあたりの葛藤が理解できなかったのですが、これはマリアの象に涙する彼女の想いを理解できなかったということにもなるのでしょう。運命を受け入れて、かつ生き抜いてきた彼女がついに自らの意志で自分を未来に向けて葬り去るように見えるラストはなかなかに衝撃的である一方、なぜなの?、一体彼女が望んでいたことは何なの?という気もしてしまいました。

はいえ、落ち着いた映像、豪華な衣装、そして適役適演の演技陣に支えられて、かなりの見応えのある映画に仕上がりました。儲け役とはいえ、ジェフリー・ラッシュは、エリザベスの警護役で、かつ汚れ仕事一手引き受けの冷酷なウォルシンガムを「レ・ミゼラブル」のジャベールとはまた違う渋味で好演しました。また、後でプログラムで確認して驚いたのですが、「日陰のふたり」のオドオド主人公を演じた、クリストファー・エクルストンが、野心丸出しのノーフォーク公を演じていました。生き延びて国と結婚するエリザベスとは丁度対を成す役どころなのですが、その熱演ぶりが印象的でした。

量的に暗いシーンが多い前半は、キャシー・バーク演じるメアリーの不気味さもあって、さながらお化け屋敷を観ているような気分になりました。何しろ、腹に一物持った連中が、逆光の中を徘徊している王室なんていわゆる魑魅魍魎の世界です。映像の影の部分に、どろどろの策謀と怨念が潜んでいるというイメージがつきまとうのですよ。その中で、エリザベスは、他の人間からは「イノセント」な人だと言われています。それは確かに一理あるのですが、むしろ強さとしたたかさを感じさせるあたりが、ブランシェットのルックスと演技力なのでしょう。「オスカーとルシンダ」におけるルシンダのように、健気とも奔放とも違う不思議なキャラクターを演じきったあたりに彼女の底力を感じます。どんな画面でも彼女の表情には困惑の影が見えるのですが、それがラストの厚化粧で見えなくなるあたりにこの映画のカギがありそうです。このラストを彼女が何かを勝ち取ったようにも見えますし、何かに取り込まれてしまったようにも見えます。歴史絵巻の中で、エリザベスがどうなってしまったのかは、観る人の判断に委ねられると思いました。私は、自分自身を捨て去ることで生き延びることを選んだ女性の物語と見ました。(だいぶ表層的な見方ではあるのですが。)

ビッド・ハーシュフェルダーの音楽は、オープニングのコーラスが高らかに鳴る曲がまず印象に残ります。このテーマは映画の予告篇でも流れていまして、既製曲だとばかり思っていたのですが、この映画のためのオリジナルスコアでした。その後も重厚なオーケストラで、愛のテーマなどを奏でています。また、レミ・エイドファラシンのキャメラは、特に室内シーンで、移動ショットが多くて、不安定な視覚イメージを作り出しています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点2点0点 こういう映画から歴史への興味が湧いてくるかも。
ドラマとしてのボリュームは十分、役者も見事。
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