絵はスゴイと思うけど、何やら趣向の盛り込みすぎではないかい?
田一家は5人家族、主人のたかし、妻のまつ子、その母しげ、中学生ののぼるに、小学生ののの子、どこにでもいそうな家族のやることはよくある話。ショッピングセンターに家族で出かけて、のの子を置いて帰ってきちゃうし、暴走族に注意しようとして逆にスゴまれてシュンとしちゃうし、のぼるは女の子から電話がかかってきて浮き足立っちゃうし、よくよくありそな日々が淡々と流れていくのでありました。
の先、結構この映画にケチつけてますので、楽しみにされている方は読み飛ばして下さい。
しいひさいちの原作は4コママンガなんですが、これを1時間44分の長編アニメにするということで、一体どういうものが出来上がるのか興味ありました。何しろ「バイトくん」以来のいしいひさいちのファンですから、それがスタジオジブリでアニメ化ということでかなり期待するものありました。「がんばれタブチ君」もいしいひさいち原作でしたが、あれはベタなアニメ絵で、原作の味とはまるで別物でした。今回は予告篇を観る限りは、水彩画のタッチで、原作の4コママンガの雰囲気をかなり伝えていましたので、ひょっとしてイケてるのではないかと思ったのです。
て、実物なんですが、確かに楽しくできてはいます。原作の笑いをかなり丁寧に再現しているのですが、原作から離れたアニメとしての追加部分がどうもしっくりときませんでした。原作は4コママンガながら、間の面白さが見事で、コマの外を感じさせるタッチは、時として人生の機微すら感じさせてくれるものでした。ところが、アニメ版は、一言で言うと「説教臭い」のですよ。冒頭での、結婚式のミヤコ蝶々のスピーチからして「人生はどうのこうの」「子供を早く作れ」だの、これは冗談かと思っていると、絵は結構マジメに人生を語り始めるので、「おいおいマジかよ」の気分になってしまいます。ラストでは、たかしがまたしても結婚式のスピーチをマジにやるので「ちょっと待てよ」という気分になってしまいました。
う言えば、この映画にはディズニーが一枚噛んでいるというのに気付いて、あ、これってハリウッドを意識したのかなと思ってしまいました。主人公が要所でスピーチしたがるのは、アメリカ映画によくあるパターンですからね。でも、そういうのは一々言葉で語らずに絵で見せてくれれば充分でして、せっかく淡い絵でいい雰囲気なのに、趣向がクドいのでは台無しではないかと思ってしまいました。ラストでの「ケセラセラ」の大合唱もはっきり言って「クドい」です。普通の適当に生きてる家族が町中を巻き込んで、マジで「人生はなるようになれ」なんて歌い出すのは、どうも日本的ではないような気がするのですよ。同じ、町中巻き込んでのミュージカルなら、「クレヨンしんちゃん、メイド・イン・埼玉」での、みさえの便秘が直ったうれしさを歌う趣向の方が素直に楽しめました。ちょっと世界公開を意識しすぎではないかと感じてしまいました。
方では、4コママンガの「コケ」を大マジでやっているので、何だか統一感がないのです。要所要所に、柳家小三治の俳句朗読の趣向も入れているですが、何だか普通のドラマでは面白いものが作れる自信がないから、取り入れたような気がしてしまい、本気で「となりの山田くん」をアニメ化するつもりがあったのかとさえ感じてしまいました。人生の色々な断面を鋭くやさしく切り取る原作のエピソードは、俳句のわびさびにつながるものがあるとは思うのですが、原作はそういう説明臭さを抜きにして、様々なことを語っているのです。正直言って、アニメの作者が原作を読みこなしていないという印象なのですよ。笑いをとる部分とペーソスの部分のバランスも今イチでしたし、原作のファンからすれば、うれしい出来栄えとは言い難いものになっていました。逆に、雑然としているようで、実は統一感のある原作のよさを再認識してしまいました。
彩画タッチで思い切って余白を残した構図で統一された世界観、デジタル音響によるクリアな音楽など、技術的には最高のものでしょう。声優陣も朝丘雪路のまつ子がピッタリのはまり役でしたし、子供二人の好演も見逃せません。ですから、原作とは無関係に一本のアニメとして観れば、それなりによくできた映画ということは言えると思います。でも、やはり語り過ぎというのはありましょう。4コママンガに基づくエピソード部分は、原作の持つ余韻をうまく出している個所もあるのですが、ラストの家族の満面の笑顔は、ちょっと違うぞと思いましたもの。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
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何だか説明過多という印象が強いのですよ、これ。
力あって意足らずという感じでしょうか。
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