夢inシアター
みてある記/No. 153

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カラー・オブ・ハート
カラー・オブ・ハート

- Pleasantville -

意外な展開のファンタジー、甘くないけど、いい味出してます。

1999.5.30 神奈川 平塚シネプレックス3 にて


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950年代の人気テレビ番組「プレザントビル」の再放送の日、テレビのチャンネル争いをしていた、デビッド(トビー・マクガイア)とジェニファー(リース・ウィザースプーン)の高校生兄妹は、変なテレビ修理屋からもらったリモコンを操作したところ、そのテレビ番組の世界に連れ込まれてしまいます。当時のテレビ番組だから、世界は当然モノクロです。そして、主人公一家の息子と娘にされてしまった二人ですが、この世界は、毎日が変化がなく、成長もなく、街の外も存在せず、図書館の本はすべて白紙という、与えられた日々をただ過ごしているだけの世界です。ところが、遊び人ジェニファーがこの世界にセックスの良さを持ち込んだあたりから、様子がおかしくなってきます。街の中の一部やある人々に色が着いてきます。モノクロの世界にリアルな色の世界がじわじわと広がりはじめ、街の中はだんだんと不穏な空気が漂い始めます。

「ビ
ッグ」や「デーブ」の脚本家であるゲイリー・ロスが脚本・監督をした作品です。一見、非現実のファンタジーの展開から物語は始まるのですが、そこに込められた寓意はなかなかにリアルで今という時代を捉えています。現代という時代では、来るべき未来は必ずしも明るいとは言えませんし、何だか社会が荒廃しているような印象です。それに比べれば、50年代のアメリカはまだ希望と自由に溢れており、「プレザントビル」はそういう古き良き時代のアメリカの家庭を描いた代表的なホームドラマです。そんな夢と希望に満ちている筈の世界に放り込まれた二人ですが、何だかしっくり来ないのは単なる時代の違いだけではなさそうです。このモノクロの世界は、プレザントビルという街が世界の全てであり、そこで楽しい日々を送ることが彼らのやるべき事だったのです。人々がそんな日々に慣らされて、何の疑問も抱いていなかったからこそ、うまくおさまっていた街の秩序が、デビッドとジェニファーという外の世界からの侵入者によって壊され始めるのです。

して、モノクロの世界に段々と色がついていきます。どういう時に色がつくのかというのが、面白いところで、他の人間が色づいていくのに、現代人であるデビッドとジェニファーはなかなか色がつきません。どうすると色がつくのかというところは、観る人によって解釈が異なるかもしれません。私が感じたのは、このモノクロの人々が、自分の中に大切なものを見つけ出したときに色がつくように思えました。とはいえ、これは一つの解釈です。一体、人はどういう時に色を得るのか、人間として目覚めるのかは、劇場でご確認して頂き、観る人なりの解釈をしていただきたいと思います。

半は、秩序と安定を望むモノクロの人々と、自分の意志に正直であろうとする色付きの人々との対立という図式になります。このあたりの見せ方は、それまでの色がつく、つかないのファンタジーとは異なる、かなり怖い展開となります。新しい知識、新しい意識、新しい価値観が、保守的なモノクロ人種によって弾圧を受けるというのが、1950年代という設定の中で、かなりリアルに描かれるのが圧巻です。なるほど、昨日と同じ今日を疑わずに過ごしていれば、何のトラブルもなく、安定した平穏な日々が約束されているのに、なぜ変化を受け入れる必要がありましょうや。こういう考え方の存在を否定することはできません。でも、人間そんなものじゃないことも実はよく知っているのに、そこへ目を向けようとしないというのは、社会性に欠けた人格と言われても仕方ありません。

れは、現代の私たちにもあてはまるかもしれません。毎日が平穏無事ならそれは変えたくない、もしもその日々の生活が誰かの犠牲の上に成り立っているとしても、それはできることなら知りたくない。自分の中に希望があったとしても、その存在を認めて、今日と異なる明日へ踏み出すのをためらう気持ちは理解できます。このモノクロの人々は、今日と異なる明日の存在にすら考えが及ばないのです。ところが、「人々は変わる」ということに直面せざるを得なくなってくると、昨日と同じ今日を守るために行動を起こし始めるのです。大義名分はあります「秩序」「和」もっともらしく聞こえる言葉なら、何でもいいです。しかし、そこには人間とはどういうものかという視点が欠けているのです。

間はよい方にも悪い方にも可能性を持っているのに、それらが全て否定され、ともかくも、昨日と同じ今日が守るべき全てとなってしまう、これは人間の可能性の否定であり、人間の変化や成長を抑圧するものになっていきます。確かに、人間の力は正の方向を向くこともありますが、負の方向を向くこともあります。それでも、人間のそんな両面を飲み込みながら進んでいかないと、未来はないという視点はなかなかに含蓄があるなという印象でした。

や登場人物の部分的に色がつくという絵作りが見事でした。かなり手の込んだ視覚効果による仕事のようですが、大変、効果を上げています。また、役者は皆好演で、特にごひいきジェフ・ダニエルズの好演が光りました。また、善玉は滅多に演じませんが、この人の出る映画にハズレがないというJ・T・ウォルシュが相変らずうまい敵役ぶりです。この人がもう観られないのは残念なことです。さらに、ジョアン・アレンとかウィリアム・H・メイシーという芸達者な面々がいいところを見せます。最初はホームドラマのステレオタイプのキャラクターとして登場しながら、段々と人間としての奥行きを見せはじめるあたりが見物です。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点1点0点 今の自分に本当に色はついてるのか、考えさせられます。
主人公のエピローグがなかなか泣かせます。
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