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Eight Milimeter
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ストレートなスリラーながら人間の葛藤がきちんと描かれていてちょっとヘビー。
立探偵のウェルズ(ニコラス・ケイジ)はある富豪の未亡人から不思議な依頼を受けます。夫の遺品の中に不審な8mmフィルムがあるというので、その調査をして欲しいというものでした。そのビデオの中身は若い娘が黒いマスクを被った男に惨殺されるといういわゆるスナッフフィルムというもの。老婦人はこの娘が無事でいることを確認したかったのです。まずは行方不明の届け出のなかから、彼女の正体を探ろうとするウェルズですが、段々と事件に深入りしていくに連れて彼自身の中で何かが変わり始めるのでした。
告篇をみた限りでは、何だかサイコホラーのような印象を受けたのですが、実際に本編を観た印象は、サイコとノーマルの境界線上のホラーという言ったところでしょうか。主人公を演じたニコラス・ケイジの正気と狂気の間の綱渡り的演技が、見応えのあるスリラーになっていました。オープニングで示される殺人フィルムに関わる謎については、それほど驚くべき内容はありません。謎解きよりも、その殺人フィルムが作られるまでに至った経緯を探偵ウェルズが追いかけていくところがドラマの主眼になります。そして、突き止めた事実にウェルズがどう行動を起こすのかがこの映画の主眼なのですが、「セブン」のアンドリュー・ケビン・ウォーカーの脚本はここにかなりヘビーな展開を描き出しました。そして、職人ジョエル・シュマッカーの演出はケレン味を排して正面から、人間の正気と狂気の狭間を見せてくれます。また、脇の登場人物まで丁寧にキャラタクー付けがなされていまして、理性と感情の葛藤の結末は劇場でご確認下さい。
5年連れ添った亭主の遺品から、現われたとんでもないフィルム、未亡人にしてみれば大ショックです。これは一体何なの?と調べたくなる気持ちもわかります。その一方でそういうフィルムを観て性的興奮を覚える連中もいるのです。そして地下に出回るチャイルドポルノの世界、そんな普通の人にはちょっと縁のなさそうな世界に、平凡な家庭人であるウェルズが仕事とは言え、首を突っ込まざるを得なくなるところから、この映画の地獄の釜の蓋が開くのです。彼が幼い娘を持ち、夫婦仲もうまくいっているのだけに、そこに忍び寄る狂気と葛藤の怖さが身近に感じられるあたりがうまいです。
場人物の中のキーとなるのは、8mmフィルムの中で殺されていた娘の母親です。彼女は娘の死を知らず、毎日娘がいつ帰ってくるかを待ちわびる日々を送っています。そんな彼女を観ていてウェルズの心に義憤がむらむらとわきあがってくるあたりが見応えがあります。シュマッカーは母親の登場部分をじっくりと描いていて、この彼女の存在が、ラストで主人公にギリギリの救いを与えるあたりが見事だと思いました。このラストをハッピーエンドと見るかどうかは微妙なところですが、シュマッカー監督は娯楽映画のボーダーラインにこの映画をまとめることに成功しています。
はいえ、この映画で描かれるポルノ業界、特に夢をもってハリウッドにやってくる若者を食い物にしている連中に対する視点はかなり厳しいものがありまして、こんな奴等死んで当然みたいな見せ方はなかなか思い切ったものだと感じました。また、そんなひどい奴等を演じたジェームズ・ガンドルフィーニやピーター・ストーメアといった演技陣が単なる悪役以上にキャラクターを膨らませるのに成功している分、彼らの行動と、主人公の行動の境界線が曖昧になっていくあたりが圧巻でした。
た、そんな世界に何となく居続けてしまっている、ポルノショップの店員の存在が映画に新たな視点を与えています。ホアキン・フェニックスが好演したこの店員が、この業界に居続けることができるのは、常に客観的な視点を持っているからだと思われるのです。自分が当事者として、需要と供給の中に巻き込まれたら抜けられなくなる、それを知っているからこそ、居座ることができる。ポルノの世界にかかわらず、株でも宗教でも似たようなところがあると思います。ただ一歩間違えると、そんな彼も殺人フィルムの供給側にまわりかねない危うさを常に抱えています。そのあたりにもう少し突っ込んでくれたらとも思うのですが、そうなると娯楽映画からは逸脱してしまいそうです。
れにしても殺人フィルムの存在の怖さもさることながら、そのフィルムを作る動機が語られるあたりが不気味で、不快感をあおります。普通にそのへんを歩いている社会人、例えクリスチャンであっても、人を殺す快感、殺人を見る快感に身をゆだねているのかもしれないと思わせるあたりが見物です。そして、そんな連中を目の前にした主人公がとった行動が果たして正しいことと言えるのか、この映画では神の視点は存在しません。ただ、人の心だけが救いを与えるのみなのです。しかし、この映画は、その人の心が赦しや癒しを与えきれないという残酷な一面も見せます。ここで描かれる世界は、「セブン」なんかより、ずっと身近で救いのない地獄なのかもしれないのです。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
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この映画の不快な怖さは後からじわじわ効いてきます。
役者陣の好演がドラマの格を上げています。
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