-
The Thin Red Line
-
何となく言いたいことはわかるけど、見せ方は戦争アクションなんだよなあ。
1999.4.29
ワーナーマイカル茅ヶ崎シネマ5
にて |
二次大戦中のガダルカナル島、脱走常習犯のウィット(ジム・カヴィーゼル)は、C中隊のウォルシュ曹長(ショーン・ペン)の下に配属され、日本軍が建設中の飛行場の奪取という任務につきます。上陸は難なく成功した彼らですが、丘の上のトーチカ陣地に行く手をはばまれ立ち往生。司令官のトール中佐(ニック・ノルティ)は犠牲を承知でムチャな攻撃命令を出すものですから、ついには現場の指揮官スタロス大尉(エリアス・コーティアス)は命令拒否。そんな内輪もめもありながら、ついには日本軍の基地まで総攻撃をかけることになるのですが......。
国の日々」という美しい映画を撮って、その後沈黙を守ってきたテレンス・マリックの20年ぶりの作品は、戦争映画。それも第二次大戦の激戦のガダルカナル島を舞台にした作品です。どうしても「プライベート・ライアン」と比較したくなってしまうのですが、のっけから主人公がモノローグで「生と死」に語り始めるあたり、こちらは戦争そのものを描こうとしているのではなさそうです。確かに戦場は登場するのですが、それと同じくらいの比重で自然の美しさが描写されます。ひょっとしてこれは戦場をあくまで舞台装置として使って、人間の生と死の境目について語っているのではないかと思ってしまいました。特に主人公の母親の死について語る部分が大変印象的でした。主人公は、映画の冒頭では死を怖れていますし、死を受け入れる勇気を称える気持ちすらあるのです。それがラストでどう変わるのかは劇場でご確認下さい。でも、色々な見方のできる結末と言えそうです。
争映画として見れば、あまり目新しいところもなく、非情で出世主義な上官は昔の「突撃」のころからの定番ですし、ショーン・ペンの出てくるシーンは「プラトーン」を思わせます。では、他の映画とどこが違うかというと、時間の流れ方が他の映画に比べてゆっくりなのです。戦場とはいえ、四六時中ドンパチやっているわけではなくて、その中で静寂の時間がかなりあることに不思議な味わいがあります。その静寂の時間が登場人物に人生を考えさせ、語らせるのかなと思ったのです。人は戦場という特殊な状況で、哲人となり詩人となるというのは、なんとなくわからなくもありません。
だし、そういう視点から描いたにしては、描写が生々しく、一人称カメラやクローズアップの連続で、戦争全体を描くという視点は感じられません。語られるセリフが抽象的で神の視点に近いのに、映像は常に兵士の視点にあるところがちょっと戸惑ってしまいました。自然の美しさにしてもあくまで個々の兵士の視点で描かれますので、客観と主観が混在しているような印象を受けてしまったのです。戦争を舞台にしながら戦争の是非も問わないですし、部下を無駄死にさせる上官の非情を糾弾するわけでもありません。ただ、そういう事件があったことが淡々と描かれていきます。
の一方で、主要登場人物の心の声は、生死の境の極限状況の中にいるのに、生きることの意味、価値について語り続けます。そんな禅問答のような語りを聞いていると、死への怖れも悲しみも何か嘘臭いものに見えてきてしまいます。そして、私にとっては、人の生き死にそのものより大事な何かをこの映画から感じ取れないままに見終わってしまったので、残念ながらこの映画にのりきることができませんでした。何か、もっと簡単な方法で表現できることを、もってまわったような言い回しで勿体つけているように思えてしまったのです。饒舌なのに伝わらない言葉とでも言うのでしょうか。
ケチをつけてしまったのですが、その一方、後半、日本軍の陣地を攻めるあたりの描写がすごいです。攻め込むアメリカ軍に泣き叫び逃げ惑う日本軍の兵士たち。ここで登場する日本軍の描写は、セリフがやや不自然かなという程度でとてもリアルでした。彼らが掃討され、捕虜になるあたりで涙が出てしまったのは私が日本人だからでしょうか。日本の戦争映画ではみたことのない、絶望とフラストレーションでズタズタの日本人が大変リアルに描かれます。こういうのどこかで見たことあるなあ思って後で気がついたのですが、彼らは、記録映画に登場する、投降する日本兵そのまんまなんですよ。また、記録映画に登場する収容所のユダヤ人とも相通ずるものがありました。きっと戦争に行って、敵軍の捕らわれの身になると、きっと死の恐怖と絶望とプライドの葛藤で、人間がズタズタにされてしまうのだろうと思います。ただテレンス・マリックの視点は日本軍の描写で戦争の残酷さを描こうしたとは思えませんでしたので、映画の語ろうとする別のところで心を揺さぶられてしまったようです。
者はなかなか豪華な顔ぶれをそろえてはいますが、ジョージ・クルーニーは1シーンのみですし、ニック・ノルティなんて勿体無いような役の使い方に思えてしまいました。これを20世紀最後の映像叙事詩とほめそやするのも、果たしてどんなものかという気もしますが、今時誰もやらないような視点から戦争に斬り込んだという点では注目すべきものがあると思いました。とはいえ、娯楽映画としては、ドラマの構成はチグハグな印象ですし、思わせぶりなだけのエピソードも多かったように感じましたし、長いという印象は拭えないということがあります。(ちなみに前作の「天国の日々」は96分でしたが、今回は171分ですからね。)
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
お薦め度 |
採点 |
ワン・ポイント |
 |
   
|
はまる人ははまるらしいんですが、万人向けとは。
どういう映画なのか一言では語りきれません。
|
|