夢inシアター
みてある記/No. 121

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鳩の翼
鳩の翼

- The Wings Of The Dove -

救いのない話なのに、ぐいぐい引き込まれてしまいました。

1999.2.13 東京 ル・シネマ1 にて


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910年のロンドン、没落した父のもとから裕福な叔母にひきとられたケイト(ヘレナ・ボナム・カーター)には、恋人の新聞記者マートン(ライナス・ローチ)がいました。でも彼は貧乏だし、叔母の望む結婚をしないとケイトも遺産をもらえません。お金がない夫婦の結末を、父母を見ていて痛いほど思い知っているケイトは、なんとかして、お金を手に入れてから結婚したいと考えます。そんなある日アメリカから大富豪の遺児ミリー(アリソン・エリオット)がやってきます。ケイトとミリーは意気投合しますが、実はミリーは重い病気にかかっていてもう余り長くなかったのです。そして、ミリーはマートンに恋してしまいます。嫉妬を感じるケイトですが、自分とマートンの関係を隠して、二人を接近させようとします。ケイトにとってミリーの財産はそれほど魅力的だったのです。

際、結婚するってときはお互いの経済状態を考えるものです。いかに愛があったって「貧すりゃ鈍す」ではありませんが、お金のない生活のみじめさは味わってみないとわからないようです。特にこの映画の舞台となる、貴族階級のお金のないのは相当みじめみたいです。貴族という肩書きがありながら経済的に没落していくのは、最初から貧乏より、ずっと悲惨です。そんなのを身近で見せられてきたケイトが、愛するマートンと結婚するためにはまずお金という気持ちもわからないではありません。でも、自分の恋人に、死に掛け金持ちのミリーを誘惑させようってんですから、これは悪女の部類に入れてもいいでしょう。

ころが、このドラマでは、ケイトがそこまで悪役になり得ていないのです。ヘレナ・ボナム・カーターの演技とホセイン・アミニの脚本、そしてイアン・ソフトリーの演出が、見事にケイトという女性を生身の血の通った、説得力のあるヒロインに作り上げました。最初、叔母に引き取られて虚ろな顔をしていたヒロインが上流社会の渡り方を覚えて段々と生き生きとしてきます。その一方で策略家の顔も見せてくるあたりが圧巻です。自分の欲しいものを手に入れるために画策する彼女の心の動きが、現代の感覚でも十分理解できるというところにこのドラマの面白さがあります。自分で恋人を金持ち女に接近させておいて嫉妬の炎を燃やしてしまうケイト。そんな彼女が、身勝手エゴイストというより、女の哀しさを感じさせるあたりが圧巻です。

画の後半は舞台は水の都ベニスに移ります。この幻想的で浮世離れして空間は映画の舞台としてもよく登場します。「ベニスに死す」「アンナ・オズ」「赤い影」などが有名ですが、この映画でも、死にゆくミリーの愛の舞台としてベニスが印象的に使われています。「この森で天使はバスを降りた」の天使ことアリソン・エリオット演じるミリーは、登場時には、屈託のない輝くようなアメリカ娘として登場します。それが病気と恋の同時進行に伴って、憂いを秘めた透明感のある美しさが備わってきて、ラストでは泣かせる「I love you.xxxxxxx(ここは劇場でご確認を)」を聞かせてくれます。彼女の天使のような美しさと善良さが、このドラマの悲劇性を浮き立たせます。それは、単に彼女が気の毒な被害者であるという意味ではありません。彼女を演じたエリオットは、ミリーをドラマの一部分ではなく、一人の女性としての存在感をきっちり見せてくれました。ケイト、ミリー、マートンの各々の境遇が、こんな形で出会うことがなければ、こんな結末は迎えなかっただろうにという思いが胸に残りました。そのあたりは劇場でご確認いただきたいと思います。

かの後味の良くない話ではありますし、主人公に拒否反応を起こして、この映画を受け付けないという方もいらっしゃるかもしれませんが、ヘレナ・ボナム・カーターの名演を見るだけでも一見の価値はあると思います。その行動に反感を覚えながら、その一方で共感もしてしまう、そんな複雑なヒロインを重厚に演じきるあたりは大したものです。また、個人的な趣味かもしれないですが、彼女って美人とも思わないし、スタイルもよくないのですが、彼女の映画を観ていると、彼女がすごく美しく見えるときがあるのです。どんなキャラクターを演じても、内面からにじみ出る美しさを感じさせるあたり、さすが女優、いや名優ではないかしらと思ってしまうわけでございます。

トリス・ルコント監督作が多い、エドゥアルド・サラのキャメラはシネスコ画面をうまく使い、普段は空間を空けるような画面構成をしておきながら、要所要所でドキリとさせるようなクローズアップでインパクトをつけました。また、「スピーシーズ2」のエドワード・シャーマーによる音楽は、悲劇の流れを控えめにフォローしています。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
△ 2点2点2点2点0点 おすすめ度はむずかしいです、デートのお供にもちょっと。
ドラマとしての見応え十分、これいいですよ。
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