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I Want You
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異色のラブストーリーは、見応えあるミステリーの逸品。
ープニングで示される、死体遺棄事件、どうやら全ての発端はここらしいのですが、その全貌はわかりません。さて、海辺のある町に住む少年は、クラブの歌手をしている姉と二人暮らし。一言も口を聞かないし、姉の情事を録音して聞いてたりする変な奴。そんな彼が知り合ったのは、美容師のヘレン(レイチェル・ワイス)でして、大人の女性にちょっとお熱があがってつけまわしたりもしちゃいます。一方、この町マーティンという男が帰ってきます。この男、かつてヘレンと恋仲だったらしいのですが、ただそれだけの関係ではなさそうです。一体、過去に何があったのでしょうか。そして、今が何かが起こりつつあるのです。
記のあらすじは、映画のほんの冒頭部分のみしか書いていません。後は、是非劇場で御覧になっていただきたいです。と、申しますのも、この映画は、個々の時点での登場人物の行動とか感情の動きがパズルのピースのように組み合わさっていき、最後のピースが揃ったところで、全ての謎に解答が出るという構成なのです。とはいえ、勿論、ミステリーだけの映画ではありません。最後の最後で、それはそれは、切なくもおぞましい愛のドラマに、観客は直面することになります。
人公の少年は、集音マイクとヘッドホンといういでたちで、完全に自分の世界に閉じこもってしまっています。姉に対して、時には母親に甘えるように接することもありますが、基本的には変な奴。一方のヘレンはなかなかに色っぽい美形のお姉さん(でもスリム系というより、ムッチリ系なのは、監督の趣味かしら)ですが、何か影のある雰囲気、それでも少年にはやさしいお姉さんをレイチェル・ワイスが熱演しました。突然現れた昔の恋人への態度のグレーゾーンがこの映画のカギとなります。一方の昔の恋人マーチンの方は一見好青年で、少年の姉に見せる態度も好感が持てるのですが、一方ヒロインにはストーカーの如くつきまとうのです。偏執的なようで、その割には狂暴ではないキャラクターが妙な歯切れの悪さを運んできます。
刀両断できない複雑なキャラクターに、これがリアルというものかなどと考えていると、最後のパズルのピースがはめ込まれ、ドラマは別の様相を呈してくるあたりが圧巻です。そして、届かない愛、応えられない愛の結末が胸を打ちます。ラストの「どうにもならない感」は、同じ監督の「日陰のふたり」の結末を思い出させます。
ラマとしての見応えもさることながら、シネスコの画面を駆使した視覚的演出も見物です。ロングショットの凝った構図の切り取り、不思議なロケーションの醸しだす独特の雰囲気、人工的な色加工などによって示される少年の視点からの「覗きショット」など、「ガタカ」の撮影監督スワヴォミール・イジャクがドラマに奥行きを与えるいい絵をたくさん作りました。
談になりますが、この映画を観て、一連の「松方、仁科離婚騒動」の報道に、そこに見えるものだけで判断するもんじゃないなあって、改めて感じてしまいました。自分に見える今のその一瞬だけで、過去の時間の流れを語り尽くせるものではないなあって。この映画の中で、単純に善玉、悪玉を決めながら観ていた自分が、最後のピースを手にしたとき、ささやかな羞恥心をおぼえてしまったのでした。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp
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ラブストーリー、ミステリー、どっちでもおすすめ。
こういう映画にはまりたい気分ってあります。
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