夢inシアター
みてある記/No. 114

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ジョー・ブラックをよろしく
ジョー・ブラックをよろしく

- Meet Joe Black -

正統ラブファンタジーの味の決め手はじっくり煮込んだ3時間。

1998.1.10 神奈川 ワーナーマイカル茅ヶ崎シネマ1 にて


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富豪の社長ウィリアム(アンソニー・ホプキンス)は65歳の誕生日を目の前にして不思議な声を聞きます。その声の主は、死神だったのです。いい男(ブラッド・ピット)の肉体を乗っ取って彼の前に現れた死神は、この世を案内しろ、その間は生かしておくからという約束をします。彼の娘スーザン(クレア・フォラーニ)は乗っ取られる前のいい男に会って好意を持ち始めていたところだったので、「どうしてあなたがこんなところに」とびっくり。ウィリアムは死神をジョー・ブラックと紹介します。それから、ウィリアムの腰巾着みたいにどこへでもついてまわるジョーに周囲の人間は疑いを持ち始めます。だって、ウィリアムはジョーに言いなりなんですもの。一方、スーザンはジョーが最初に会ったときと別人みたいなのが気になりながらも、彼にひかれていき、なんと死神もスーザンに好意を持ち始めてしまいます。お迎えに来たくせにそんなことしてていいのかしら。

初に予告篇を観たときは、死神がブラッド・ピットを殺して乗り移り、そのルックスを使って現世のオンナをたらしこむという物語を連想して、どうしようかなと思っていたのですが、実際観てみたら、3時間を一気に見せて、最後にホロリとさせるなかなかの逸品でございました。「タイタニック」ほどドラマチックな展開があるわけでもないのに、3時間が過不足ない時間に思えるのは、マーティン・ブレスト監督の手腕でしょう。きっちりとカットを積み重ねた正攻法の演出がラストの余韻に一役買っていることは観終わってから気がつきました。

応は、ブラッド・ピットがタイトルトップなんですが、ドラマとしての奥行きは、アンソニー・ホプキンスの方にあります。大会社の社長で仕事一筋にやってきて家庭を顧みることもあまりなかったような初老の男、そんな彼が死の宣告をうけてしまうのですが、ここで取り乱すことなく、その運命を受け入れるあたりがなかなかに大したキャラクターになっています。ホプキンスの一挙手一投足が人生の厚みを感じさせ、また、親子の愛情の部分も丁寧に描かれました。ちょっとしたやり取りの中から、彼らのこれまでの人生が垣間見られるあたりのうまさはなかなかのものです。そして、細かいエピソードの積み重ねがラストに集約するあたりの構成もうまいですし、ホプキンスが決してコミカルな軽いキャラクターにしなかったあたりに、演出の見識を感じました。

の役者も粒揃いで、長女のマーシャ・ゲイ・ハーデンが少ない出番でいいところを見せます。何だか、他人行儀のようで、時には邪険にされることはあるけど、それでも父親への愛情はホンモノという微妙なキャラクターを見事に演じてみせました。去年の「フラバー」といい、うまい役者さんだなーって感心してしまいます。一方の純然たるヒロインのクレア・フォラーニは今一つという感じでした。キャラクターとしては、一度会っただけで恋に落ちた相手、でもちょっと違うぞって気付きながらも、心ひかれていくという難しい役柄でして、演技的な見せ場もあるのですが、そのあたりの葛藤を演じきるには荷が重かったようです。(特にラストのパーティのラブシーンが惜しい)

イトル・トップのブラッド・ピットは、好感度大で登場した後、中身が死神になってしまうという役柄ですが、マーティン・ブレストの演出はここで彼にコメディ演技をさせませんでした。この題材なら、死神が現世で右往左往した挙げ句に真実の愛を知るといったラブコメディにもできたのですが、ピットのキャラクターではコメディになりにくいと判断したのでしょうか、思い切って存在感のないキャラクターを演じているようです。その分、ホプキンスの名演が際立ったという感じですから、なかなかの名助演ぶりと申せましょう。

らすじのポイントを語ってしまえば、2,3行で済んでしまうようなお話なのですが、細かなエピソードを積み重ねて、見応えのあるドラマになりました。予定調和とささやかな奇跡が暖かい余韻を運んできます。また、アメリカ映画でありながら、死に対する一種の諦観をホプキンスが見せるあたり興味深いものがありました。トマス・ニューマンの音楽の絶妙な使い方とか、深みのある絵を作るキャメラや美術といった技術的な好サポートも見逃せません。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点1点0点 それでも3時間ですから椅子のいい劇場でどうぞ。
コメディでないのがこの映画の買い。
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