夢inシアター
みてある記/No. 100

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トゥルーマン・ショー
トゥルーマン・ショー

- The Truman Show -

とにかく、すごい。何かが心に迫ってくる、でもそれって何なの?

1998.11.14 神奈川 藤沢オデオン座 にて


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にやらテレビ番組が始まるようです、「トゥルーマン・ショー」ですって。でも、何だか普通の人に日常を追いかけているだけみたい、退屈な番組でないの? 主人公のトゥルーマン(ジム・キャリー)だけ本人が演じていて、後、彼の友人や奥さんは役者さんのようです。舞台は海辺の街、でも、これを楽しみにしている視聴者は結構いるみたい。これは作りものじゃない、ホンモノのドラマだそうな、どこがホンモノやねん。でも、この番組はちょっと変です。主人公のトゥルーマンは自分がテレビに映っていることを知らないみたい。なーんだ、「どっきりカメラ」じゃん。いえいえ、その規模はどうやら只事ではないようです。そして、そのトゥルーマンが自分の周囲の出来事に不信を抱き始めます。テレビ番組の中に完全に取り込まれちゃっているトゥルーマンを待ち受けているものは何なのか、そして、この番組の正体とは?

の映画では、最初からトゥルーマンが「トゥルーマン・ショー」なる番組に出演し続けているということをネタばらししています。しかも、彼はそれを知らないみたい、周囲はみんなクリストフ(エド・ハリス)という男に演出されているのですが、それが街ぐるみだというから恐れ入ります。なぜ、トゥルーマンがそのカラクリに気づかないのか、それには理由があるのですが、そのあたりは劇場でご確認ください。

もかく、彼の人生はクリストフなる男に完全に牛耳られているわけでして、さらにそれが全世界に放送されているというのは、ずいぶんとひどい話だと言いたいところですが、もしも、トゥルーマンが神を信じていて、その神さまの思し召しで自分の人生が決まっていると思っていたら、あながちそれは的外れではありません。客観的に見れば、同じ人間でありクリストフが、トゥルーマンの人生をコントロールして、かつ見世物にしているのは人道に反するように思えます。でも、メディアというものはそこまで極端でないにしろそういう側面を持っています。犯罪者のドキュメンタリーで明かされてしまう彼の人生、「明るい家族計画」のお父さん、「どっきりカメラ」の被害者のみなさん、多分にヤラセがあるとは思いますが、当事者納得ずくのヤラセとは限らないと思います。彼ら、それによってギャラを得ているから、トゥルーマンとは違うということもできるのですが、トゥルーマンは何も得ていないのかというと、そうでもなくて、本人は意識していないまでも、彼は完全な、そして安全な生活を手にしているのです。そして、欺瞞と嘘にまみれた実社会から守られているのです。

も、それは選択の自由を奪われた人生ではあります。生まれた時の遺伝子の優劣で人生がすべて決まってしまう世界を描いた「ガタカ」のアンドリュー・ニコルの脚本は、その奪われた選択の自由をテーマにさらに深い物語を作りあげました。自分のことを自分で決めるということは最低限の自由と思っていたら、実はそうでもない、その自由の尊さを再認識できる映画とも言えます。そして、その自由も勝ち取らねばならないときがあるということもこの映画は教えてくれます。さらに、我々も無意識のうちにメディアに操作されて、判断力をマヒさせられ、いつの間にか、選択の自由を奪われている(選択肢が思い浮かばなくなっている)のかもしれないというところまで思い至ってしまいました。

方、それをテレビの前で一喜一憂しながら楽しんでいる視聴者がいます。試聴者はそのクリストフのヤラセに対してでなく、何も知らないトゥルーマンの一挙手一投足に「ホンモノの人生」を感じるのです。ホントの人生を生きてる筈の視聴者が、ヤラセの世界にどっぷりはまりこんでいるトゥルーマンを観て、ホンモノを感じ、高い視聴率をあげているという構図が非常に面白いと思いました。現実があまりにもウソっぽくって、心を素直にゆだねることができないのかもしれません。

の映画は様々な視点から観る者を圧倒します。トゥルーマンの生き方、それをコントロールしようとするクリストフ、ホンモノの人生をブラウン管の向こうで楽しむ視聴者、この3者のどれを取っても、全て不完全で、リアルで、そして、我々の姿にダブります。うまく言葉にできない何かに圧倒され続けの1時間42分でした。

後に役者陣の好演も見逃せません。いかにも作り物っぽく登場するジム・キャリーのあやふやなリアリティー。そして、いつ見てもやなオンナの典型(これは私の偏見入ってます)のローラ・リニーの持つ胡散臭さ。隙間風の吹く家庭に君臨する孤独な父親の如きエド・ハリスの切ない威厳。これまでにない入り組んだドラマの中で彼らの演技力をフル活用した、ピーター・ウィアーの演出も見事でした。

中劇が破綻した番組がさらにオンエアされ続け、それを観る視聴者の視点を、映画館の観客が眺めているという、外へ向かう入れ子構造のドラマは最後には、観客を、そして、この社会そのものを巻き込んでいきます。そう考えるとかなり不気味なスリラーということもできそうです。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点1点 久々に感動プラスアルファの何だかスゴイ映画。
ラストカットのダメ押しの一言に☆一つおまけ。
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