夢inシアター
みてある記/No. 98

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学校III
学校III

長引く不況と雇用不安の中、人生の再出発を目指して頑張る中高年たちへの応援歌。

1998.11.9 ららぽーと松竹 にて


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田洋次監督の「学校」シリーズ、前2作は夜間中学と養護学校で働く教師と子供たちの姿を描いたものでしたが、今回は職業訓練学校を舞台にリストラされた中高年たちが再就職を目指して奮闘する姿を描いています。前作までは主役が西田敏行だったこともあり、笑わせながらしっかり泣かせる山田監督おなじみの職人芸に舌を巻きながらも、そのちょっと泥臭くてクセのある演出が鼻につかないでもありませんでした。けれど、今回は今までと全く趣の違う作品になっていまして、しかもシリーズ最高作、いえ、山田監督の代表作の1本に数えられる作品ではないかと思います。

語の主人公は、早くに夫を過労死で失い、女手一つで自閉症児の一人息子を育てている主婦紗和子(大竹しのぶ)。不況のあおりを受け、勤めていた零細企業を解雇されてしまった彼女ですが、45才という年齢での再就職は大変厳しく、職安の薦めもあって職業訓練学校に通うことになります。彼女の選んだ職業はビル管理業。電気設備や空調などさまざまなハードのメンテナンスをするいわゆる3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれている男ばかりの職場で、理数系の勉強に全く縁のなかった彼女は授業についてゆくのに四苦八苦です。教室には倒産した町工場の社長や、経営に失敗した喫茶店のマスターなどさまざまな人が人生の再出発をかけて集まって来ていました。けれど大手証券会社の部長だった高野(小林捻侍)だけは、部下をアゴで使っていた時のプライドが邪魔をしてなかなか周囲となじまずクラスの中で孤立していました。紗和子はそんな彼の孤独な姿が気になって・・・。

いうわけで、今回の「学校」シリーズ第3作は、「学ぶ」という大きなテーマに加えさらに大人のほろ苦いラブストーリーがからんできます。典型的な文部省推薦作品だった前2作とうって変わって、今回の観客のターゲットはずばり「ボロボロの中高年」。「マディソン群の橋」や「モンタナの風に抱かれて」みたいにロマンチックじゃないけど、「ニッポンのおじさんおばさんの淡い恋」が大変さわやかに描かれています。しかもいつもの山田作品の「臭み」が全くなくて、余韻の残る恋の幕切れも実にお見事です。

ブストーリーとしても大変魅力あるお話なのですが、私の場合、登場人物が同世代ということもあり、映画の中の出来事が我が身にも起こり得ることとして、目いっぱい感情移入して見てしまいました。紗和子という女性の境遇は、踏んだり蹴ったり、全くもって不幸のデパートみたいな身の上なのですが、こうゆうことは神さまのちょっとしたさじ加減でどんな人にも降りかかることなんですね。人生何事もなく無事に過ごすということは、目隠しして高速道路を横断するよりはるかに難しいってことを、この歳になるとつくづく感じます。

んな気の毒な境遇のヒロインを大竹しのぶが明るく自然体で演じています。その姿には「奥に秘めた芯の強さ」や「どんな不幸にも笑顔を絶やさないけなげさ」とか言った、観ている者に「立派だけど見ていて辛い」と感じさせる妙なプレッシャーがないのがいいです。この淡々とした雰囲気は同じく失業者の姿を描いたイギリス映画「ブラス!」に一脈通じるところがあるような気がしました。

画の中で印象に残ったのは、失業をきっかけに家族とうまく行かなくなって一人住まいしている高野のマンションに、高校生の息子が訪ねて来る場面。自暴自棄になり毎晩泥酔している父親に呆れ顔の息子ですが、どうやらこの息子は勉強嫌いで以前「コックになる」と言い出し、親を悩ませたことがあったようです。高野はその息子に「あの時俺は『せめて大学だけは出ろ』と言って反対したが、それは間違っていた」と言います。短いシーンですが、このシリーズが始まって5年、思えばその間私たち日本人の内面にも大きな価値観の変化があったように思います。そんなことを身を持って実感させながら、「学ぶ」ことの本当の意味を問いかける山田監督の手腕に、改めて感じ入った次第です。

魔女っ子★マキ
88721053@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点1点 こんな中高年向きの秀作がもっと多く出来れば、日本映画界の前途はきっと明るいです。
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