夢inシアター
みてある記/No. 89

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マーキュリー・ライジング
マーキュリー・ライジング

- Mercury Rising -

意外な味わいのあるサスペンスもの。

1998.10.10 静岡 静岡ミラノ1 にて


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BI捜査官のアート・ジェフリーズ(ブルース・ウィリス)は、強盗事件での失敗の責任をとらされ左遷状態です。そして、彼は、その時に自分の目の前で射殺された少年の顔が忘れられません。そんな彼に、両親の心中現場で行方不明になった子供を捜し出す仕事が回ってきました。何のことはない、その少年は自分の部屋の押し入れの奥に隠れていたのでした。その子サイモンは自閉症で病院に運び込まれるのですが、そのサイモンがまた命を狙われます。どうやら、サイモンは陰謀に巻き込まれているようでして、両親も殺されたようなのです。視線の定まらないサイモンを連れて逃げ回るジェフリーズですが、さらに追手は迫ってくるのでした。

見何やらミステリー風ですけど、謎ときものではありません。なぜ、サイモンが狙われるのかは、最初から示されています。要は、彼が国家機密に関わる極秘の暗号コードを解いてしまったのです。そして、殺し屋の手からサイモンを守るために、ジェフリーズが奔走します。派手なアクションといったものはどちらかというと控えめで、ハロルド・ベッカーの演出はこの事件に関わる様々な登場人物をていねいに描きました。特にジェフリーズに協力する同僚や、通りすがりの女性、そして彼の上司などが彼をサポートする一方、国家機密省のクドロー大佐の悪役ぶりもストレートに描いています。このクドローを演じるのがアレック・ボールドウィンなのですが、二枚目ながら暑苦しいキャラクターはこういう役にうまくはまりました。

して、ジェフリーズが単なるアクションヒーローになっていないところで、この映画は奥行きが出ました。たまたま関わりを持ってしまった子供を、自分の手で守ろうとするあたりの展開をていねいに見せたのが成功しています。かといって二人の間に丁々発止のやりとりがあるわけではありません。何しろ、サイモンは重度の自閉症で、ジェフリーズはきちんとコミュニケーションをとることができないのですから。それでも命懸けでサイモンを守ろうとするあたりで、ウィリスが役者の底力を見せてくれます。そして、ラストシーンで彼が手にするささやかな報酬でホロリとさせてくれるのですが、そのあたりは劇場でご確認下さい。

転三転するという物語ではなく、むしろ予定調和に近い展開なのですが、そんなドラマでもきちんと作ってあるので、ラストまできっちりと見せてくれます。そういうドラマに仕上がったのは、役者の各々にきちんと演技をさせたハロルド・ベッカーの演出によるところが大きいと感じました。サスペンスやアクションというくくり方をすると多少の物足りなさもあるかもしれませんが、娯楽映画ということでは十分もとの取れる作品になっています。よく考えるとあんな結末で大丈夫なのかなという気もするのですが、その辺のこまごましたところをパスして、ジェフリーズ個人の物語としてまとめあげたセンスは買いです。全体としては、サスペンスやアクションの見せ場は少な目ですけど、ドラマとして結構見せてくれる佳作という感じです。

して、ドラマとしてのこの映画を盛り上げているのは、ジョン・バリーの音楽でした。音楽だけ聴くとなんだいつものワンパターンじゃんと思ってしまうのですが、これがドラマに落ち着いたテンポとキャラクターの奥行きを与えています。そしてエンディングの余韻もこの人の音楽あっての事でした。全体を静かなタッチでまとめあげたセンスはさすがベテランの仕事です。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点1点0点 これが娯楽映画のアベレージであったらいいなあという映画。
ブルース・ウィリスもこういう役やるんだ。
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