夢inシアター
みてある記/No. 87

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プライベート・ライアン
プライベート・ライアン

- Saving Private Ryan -

何だかすごい戦争疑似体験映画。

1998.10.3 神奈川 ワーナーマイカル茅ヶ崎シネマ4 にて


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は1944年、ノルマンディ上陸で多くの犠牲者を出しながらも連合軍はフランスを進軍中です。上陸時の立役者ミラー大尉(トム・ハンクス)も多くの部下を失いますが、そんな彼に上層部から特別な任務が言い渡されます。その任務とは3人の兄をこの戦争で同時に失ったライアン二等兵を母親のもとへ送り届けることでした。ところが、そのライアン二等兵は落下傘部隊としてフランスのどこかへ降下したところまではわかっているのですが、生死は不明。ミラーは8人の部隊を編成して敵の真っ只中へと彼を捜しに出かけるのですが、生死も不明な一兵士のために彼らは自らの命を危険にさらすことになったのでした。

っけから、ノルマンディ上陸作戦の「オマハビーチの虐殺シーン」がエンエンと描かれます。これは文字通り阿鼻叫喚。でも、向こうが機関銃構えて待ち受けているところへ、あんなふうに上陸用舟艇で乗り込んだら半分くらいは、やられちゃうようなすごい作戦でもあったことがよくわかります。文字通りの人海戦術ですが、多分この作戦の実施にあたり、犠牲者の割合は冷静に計算されていたと思わせるふしがありました。さて、描写の方も徹底して目を背けたくなるようなリアリズムで迫ります。特に人間が機関銃で蜂の巣にされるシーンなど、血じゃなくて肉片が飛び散るといった描写がもうご勘弁の気分です。また、記録映画を思わせるカメラワークは、時には兵士の一人称となって、何がどうなっているのかわからない中で自分の脇を銃弾が飛び交っているという恐怖を徹底して描ききりました。

の地獄絵図の後、ミラーの部隊はライアン二等兵を探し出すべく本隊とは別行動をとることになります。4人の息子のうち、3人を一度になくした母親のためにG・マーシャル将軍は後一人生き残っているかもしれない末っ子のライアン二等兵を捜しだすよう特命を出したのでした。オマハビーチでのあの戦闘シーンの後では、何だか絵に描いたような美談で胡散臭いことこの上ないのですが、そんな命令で8人の兵士が彼を捜し出すことに命をかけることになります。ただし、この映画でこんな命令を出した軍上層部を必ずしも悪として扱っていないことに要注意です。この映画は誰も告発したり、糾弾したりしません。その時代にあったであろう事件を淡々と描いていきます。当の兵士たちには、何でそんなことしなくてはいけないんだという思いが胸の中にあります。ミラーはそれを任務としてともかく遂行しようとします。しかし、そんな思惑もドイツ軍との戦闘の中でかき消されていってしまいます。敵と遭遇すれば否応なくそこに戦闘が発生する、それは殺すか殺されるかの闘いでしかありません。相手を人間だと思って躊躇した瞬間に自分の命は失われている、そんな張り詰めた恐怖を容赦なく描いたスピルバーグの演出は見事です。「シンドラーのリスト」でユダヤ人の死の恐怖を徹底して描いたスピルバーグだけに、全編にわたる恐怖のテンションの高さによって、戦争の恐ろしさがリアルに描き出されています。

の映画を観て、昔観た「メンフィス・ベル」という映画を思い出しました。爆撃機パイロットの物語なのですが、主人公達が、学校や病院をはずして、軍事工場のみを破壊するということを、一つのプライドとしているところがすごく気になったことがあります。軍事工場にいる人間は、その爆撃によって命を失うのに、それは彼らの責任の範疇ではないのです。でも、そういうプライドと申しましょうか、心の拠り所、自分が今正しいことをしているのだという確信がないと、一人の人間として戦争なんてやっていられないだろうと思います。時として、それは信仰かもしれませんし、戦争の正当性かもしれません。この映画における「ライアン二等兵救出(原題)」も指揮官達のプライド、精神的な救済だったのではなかったのかと思い至った次第です。そして、無益とも思える戦争のささやかな免罪符として「ライアン二等兵救出」があったのではありますまいか。とはいえ、この映画はこの行動の意味を深く突っ込むことはしません。ただ、この救出劇の中で兵士達の取る行動を冷静に描いていきますし、その見応えは十分です。「戦争はいやだ」とは言っていないのに、「戦争がいやになる」映画になっているのがすごいと思った次第です。

半のクライマックスはある橋をめぐるドイツ軍との戦闘なのですが、そこでの戦闘も徹底した殺戮の場と化します。そして、多くの命が失われてしまうのですが、このくだりがややヒロイックに描かれているのが気になりました。結局、勝者の論理としてこの戦争が描かれていることは、ラストのジョン・ウィリアムスの鎮魂のテーマでも明確です。それをどうとるかは難しいところだと思います。ただ、これまでは少なくとも正義と自由のための闘いであった第二次世界大戦でのアメリカ軍の行動に、疑問を投げかけている点では興味深いものがあります。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点1点0点 カタルシスを期待しても無理です。娯楽映画じゃないです。
実は感動できなくて、ほっとしてる私。
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