-SLEEPLESS TOWN-
馳星周のベストセラー小説を日本、台湾、香港の混成チームが映画化。無国籍都市新宿・歌舞伎町を舞台に、中国マフィアの抗争の中で燃え尽きる男女の壮絶な愛を描く。
城武と言えば、毎日テレビや雑誌でその顔を見ない日はないほど、今一番人気と注目を集めている俳優さんですが、その彼が主演した「不夜城」は、国境を越えたアジアの才能が結集して作り上げた映画です。まさに新しいアジア映画と呼ぶにふさわしいエネルギッシュな作品となりました。
くして両親を亡くした健一(金城)は、台湾マフィアのボス偉民に育てられますが、もともと台湾と日本のハーフであるため両方の社会になじめずに今は歌舞伎町で一匹狼の故買屋をしています。歌舞伎町は上海、北京、台湾の3つの中国マフィアの勢力が複雑な権力争いを続けて一触即発状態にありました。そんな時、健一のかつての仲間で、上海マフィアの幹部を殺して逃亡中の呉富春(椎名桔平)がこの町に舞い戻って来たという噂が流れます。上海マフィアのボス、元成貴に呼び出された健一は、3日以内に富春を差し出すように命じられます。もし富春を探し出すことができなければ自分が身代わりに殺される。追い詰められた健一のもとに「富春を売りたい」という謎の女性・夏美(山本未来)が現れます。
は小説を読んでいないのですが、ハードボイルドな原作に比べて、映画のほうは中国マフィアの壮絶な抗争劇よりもむしろ、健一と夏美の切ないラブ・ストーリーに重点が置かれているそうです。混血であるためにどの世界からもはみ出してしまう主人公と、不幸な生い立ちから逃れるために自分も他人も欺いて生きてきた夏美は、互いに似たものを感じながら惹かれ合ってゆきます。でも、暗黒街という非情の世界は、他人を裏切り陥れたりしなければ生き抜いていけない世界です。身体の芯までこの世界にどっぷり浸かっている二人は、相手が自分に似ていれば似ているほど、次第にその愛が信じられなくなってゆくのでした。
たしてこの謎の女性夏美は、いったい何者なのか? 健一の味方なのか敵なのか? その正体が次第に明らかになってゆく過程が大変スリリングです。そんじょそこらのチンピラは足元にも及ばないものすごいワルのようにも見えるし、一方では純粋な魂を持った幸薄い女性のようでもある。そんなあやふやでミステリアスなキャラクターを山本未来がとても魅力的に演じています。ただ、この女優さん、映画の中ではとても存在感があるのですが、あとでその顔を思いだそうと思ってもどうしても思い出せないのです。ラストで主人公の金城武が、車の助手席に粉雪の幻を見たシーンのように、映画が終わると彼女の存在もスッと消えてしまうのですね。このつかみ所のなさこそ、映画のヒロイン夏美そのもののようで、大変面白いと思いました。
話は中国マフィアの抗争が背景になっているので、日本語と中国語が飛び交う歌舞伎町はアジアの見知らぬ町のようにも見えます。登場する人物も中国名ばかりで人間関係も複雑なため、頭のトロい私などは、登場人物の把握とストーリーの展開を追いかけるのが精一杯でした。でも見終ったあと、「ああ、なるほどそうだったのか」と、主人公二人の愛憎入り交じった切ないラブストーリーが強烈な余韻として残りました。この作品を見ると、今までの甘ちょっろい恋愛ものが子供だましのように思えてきます。裏切り、裏切られた挙げ句の追い詰められた愛は、結局こうした形で終結するしかないのかなぁ、などと考えさせられました。主人公は夏美の部屋で一体なにを見つけたのでしょうか? その大事なシーン見たさにエンドロールまで観客を引っ張る演出は心憎いと言うよりむしろ、してやられたという感じですね。
城武はうわさ通りの大器ぶりを十二分に発揮しています。彼の皮ジャン姿の、なんとかっこいいこと! ただ、土壇場でヒロインの上手を行く非情ぶりがなんとなくしっくり来ませんでした。贅沢を言えばもう少しキャラクターに陰りが欲しいところです。なお、「ウェディング・バンケット」などアン・リー監督の父親三部作に主演していたラン・シャンが、主人公の育ての親でもある台湾マフィアのボスに扮し、渋い演技を見せていました。
魔女っ子★マキ 88721053@people.or.jp
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やっぱり原作も読みたくなります。さすが角川書店! |
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