夢inシアター
みてある記/No.48

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チャイニーズ・ボックス
チャイニーズ・ボックス

香港返還の混沌の中でゆらめく男と女、彼らにとって確かなものって何?

1998.2.11 東京 シネスイッチ銀座1にて


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国人記者ジョン(ジェレミー・アイアンズ)は返還寸前の香港でクラブのママ、ヴィヴィアン(コン・リー)に熱をあげています。彼女には実業家チャンというパトロンがいます。結婚を望むヴィヴィアンですが、チャンは彼女を愛しながらもそうはしません。ある日、体の不調を訴えたジョンが病院で検査をすると、白血病で後せいぜい半年の命と宣告されます。それからのジョンはビデオカメラを片手に香港のあちこちを撮ってまわります。そこで知り合った顔に傷のある娘ジーン(マギー・チャン)と知り合います。一方、ヴィヴィアンをあきらめきれないジョンと、彼に惹かれてはいるヴィヴィアンの関係はタイミングがずれてしまってうまく進展しないまま、香港返還の日を迎えるのです。

港出身で「スモーク」のウェイン・ワン監督が、1997年7月の香港の中国返還を舞台に描いた一編です。無理に色分けすれば、メロドラマになるのでしょうけど、香港という街の歴史の大きなターニングポイントを描いた映画とも言えます。私はあまり歴史にくわしくないのですが、香港が中国に返還されるにあたっての不安、希望、混沌といったものがこの映画から感じられます。紳士的だけど傲慢で、死に向かいつつあるジョン、したたかさの中にプライドと夢をのぞかせるヴィヴィアン、たたきあげの商売人のチャンの見せるやさしさ、まるで捉えどころのないジーン、彼らの有様が香港全体の空気を感じさせるのです。

に主人公であるジョンは英国人でありながら、香港について本や記事を書いたりしてるジャーナリストながら、異邦人である自分が香港を捉え切れていないことをよく知っています。こういう視点からドラマを作ると何だか西洋人優位のような映画になってしまいそうなのですが、この映画はそうはなっていません。観察者、傍観者であったつもりのジョンが、香港の歴史の一部として取り込まれているように見えてくるのが面白いところです。あちこちでビデオカメラをまわすジョンの姿は、ちょっと変わった観光客のように見えながら、その視線は、まるで何かにすがるような切実なものがあります。残された時間があと僅かしかない彼は、自分が香港にもヴィヴィアンにもジーンにも手が届いていないことに気付いたようなのです。

ジョ
ンの想いはヴィヴィアンに届かないように、チャンの想いも届かない。そして、ヴィヴィアンの想いもジョンやチャンに届かない。そんな中で香港返還を迎えて、3人の関係が少し進展するのですが、そのへんのところは劇場でご確認ください。「過去でも未来でもない確かなものを手に入れたい」というジョンが最後に手にするものは何なのか。これは、見る人によってかなり解釈が違ってくると思います。私には彼が得たものは「安心」だと思ったのですが、これは、言葉のあやでどうにでも言えるものなのかもしれません。

ジョ
ンがハンディビデオを持って、香港の街を徘徊します。昔だったら、絵を描いたり、写真を撮ったりして、香港の街をイメージとして残そうとするのでしょうが、ビデオってのは便利なものです。音、声、息づかいまでを残すことができます。記録ということから言えば、ビデオのもつ力はすごいと改めて認識しました。

者はみな好演で、特に凛とした美しさのコン・リー、意外な奥行きを見せたチャン役のマイケル・ホイ(お懐かしやMr.Boo)が印象的でした。また、中国人シンガー、ダダウのボーカルをフィーチャーしたグレアム・レベルの音楽が素晴らしいです。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
△ 2点2点2点2点0点 お勧めの言葉がうまく見つからないもどかしさ。
でも何だか心に残る不思議な後味。
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