夢inシアター
みてある記/No.43

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ブラス

Brassed Off

ブラスバンドの映画と思いきや、現実の雇用問題を糾弾して、でも音楽で感動。

1998/1/10 有楽町シネ・ラ・セットにて


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ギリスの炭坑もいわゆる斜陽産業でして、炭坑の町グリムリーももはや風前の灯火。それでも町のブラスバンドはリーダーのダニー(ピート・ポスルスウェイト)が信念持って頑張っています。とはいえ、メンバーの各々は、労使交渉の方が気がかりでそれどころではありません。それでも、紅一点の加入とかあって、何とか練習に励む彼らなのですが、いよいよ炭坑の閉鎖は本決まりの様相。借金が返せず家族に見放される人間も出る有り様。さらにダニーは入院してしまいます。ブラスバンドの決勝に出られることが決まったその日、炭坑の閉鎖も決まります。こうなってはブラスバンドも解散するしかありません。病床のダニーを励ますための最後の演奏をするメンバーたち。このままブラスバンドは散り散りになってしまうのでしょうか。

の映画はブラスバンド中心の映画ではありません。日々の生活に追われる斜陽産業の労働者の物語です。ダニーは歴史あるブラスバンドこそが第一という古風な人間ですが、他のメンバーはそれぞれにもっと大事なものを抱えています。でも、なかなかダニーに面と向かって文句も言えないメンバーが、何だかリアルで笑えます。特に前半はコミカルなタッチでブラスバンドチームの様子が描かれます。

ころが、後半はかなりシリアスな展開となります。なんだかんだ申しましても炭坑あってのバンドです。それがなくなってしまえば、バンドよりも職探しの方が重要です。家族も借金もある人たちなのですから。しかも、その現実はかなり過酷です。いくらダニーが頑張ってるからって、それを最優先して付いていくわけにはいかないのです。ダニーが病床に伏してからのメンバーの葛藤は、見ていて気の毒になってきます。

の政策とはいえ、斜陽産業が淘汰されていく現実は仕方がないものがあるのかもしれないのですが、それによって職や家族まで失う人がいる、それだけじゃない、生きるプライドまでも失ってしまう人々がいるということをこの映画は訴えます。退職金の上乗せだけでは不十分で、もっと人の心のケアが必要だというお話なのです。それ以前の経済的な部分でも踏んだり蹴ったりの人々を見せることで、現状は心のケア以前の、物のケアも十分でないことを見せます。ですから、こんな状態では、職を奪われる人の気持なんて、誰も考えていないんじゃないかと、映画は語っているようです。

ラスバンド部分では「ウィリアム・テル序曲」とか「ダニー・ボーイ」などがドラマの要で演奏されます。合奏というのは、一人一人のドラマが集まって、一つの方向に向かって動くというところが、感動を呼ぶのだと思います。音楽そのものの持つ力もあるのでしょうが、色々な人が集まっての演奏される音楽は、コンピュータミュージックとは違う、人間のドラマの積み重ねが感じられて、心を揺さぶられるものがあります。

ート・ポスルスウィエト、ユワン・マクレガーを始め、役者が皆、適役適演で、自分の身近にいそうなキャラクターをユーモアを交えて、好印象を残します。また、興味深いのは、この映画が糾弾しているのは、炭坑の会社ではなく、むしろ政府の方だということです。政府に向けての文句を大々的に言ってしまうという映画だけど、ブラスバンドというネタを盛り込むことで、エンタテイメントとして成立させてしまった、脚本兼監督のマーク・ハーマンのセンスが光ります。

ジャックナイフ
88721053@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点1点0点 重いテーマ、心打つ音楽、そろった役者と、見所一杯。
サントラCDが今売り切れです、ビックリ。
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