CURE/キュア
「地獄の警備員」の黒沢清監督が、猟奇事件を通して常人の心の中に潜む狂気を独特なタッチで描くサイコ・スリラー。
URE/キュア」は、去年の東京国際映画祭インターナショナル・コンペ部門で、役所広司が主演男優賞を授賞しています。私にとって監督黒沢清の作品はこれが初めてなのですが、彼の「スィート・ホーム」や「地獄の警備員」はすごく怖いと聞いていましたので、今回もかなりのもんだろうと覚悟をして臨みました。
すが、実際に見たところ映像面では想像したよりもはるかにおとなしい映画でした。殺人事件を扱ったホラーということで、殺人の現場が進行形で出て来るのはかなわないなぁ、と思ったのですが、そんな心配はありませんでした。ホラー映画という売られ方をしていますが、実際はスリラー映画と言えるでしょう。ホラーと聞いただけで敬遠してしまう人もいるので、この宣伝の仕方はどんなもんだろう?と思います。
害者の身体が X の字に切り刻まれる事件が多発し、容疑者はすぐに逮捕されるのですが、皆普通の人間で動機が一様にはっきりしません。役所広司演じる高部刑事が捜査するうち、記憶喪失の青年間宮(萩原聖人)が事件直前に容疑者たちに関っていたことが判明します。どうやらこの間宮が容疑者たちに催眠術をかけていたらしい。彼は警察の取り調べを受けるのですが、その話はつかみどころがなく、高部の神経をひどくイラつかせます。
事がら毎日やりきれない事件に関り疲れている高部には、神経を病んだ妻がいて、家庭でも心の休まる間がありません。怖いと言えば、そんな彼の心の鬱積が何気ない表情や映像に伺える点です。耳障りなモーターの音や赤い光の点滅が多用されているところは、デビッド・リンチの「ツイン・ピークス」に似ています。
宮との取り調べを重ねるうち、だんだん高部が憔悴してゆくのですが、ついに彼がキレて「お前たちのような悪い奴が大手を振って生きていて、真面目に生きている俺がなぜこんなに悩まなければならないんだ! あの狂った女房の面倒を一生看るなんて、ウンザリだ!」と叫ぶ場面などは、自分の心の奥深いところにくすぶっているイライラを見せつけられたような気分になります。ところが、そんな彼がある時点から妙にすっきりとした顔になるんですね〜。その辺から彼の回りに起こった出来事が現実なのか幻想なのかよくわからなくなって来るわけです。それをスマートで誠実そうな役所広司が演じるので、一層無気味さが引き立ちます。謎の青年間宮の言動は、観客として見ても妙に神経がざわつくような感じで、これは萩原聖人の怪演(?)によるところが大きいです。
魔女っ子★マキ 88721053@people.or.jp
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おっかない映画ではなく、無気味な映画です。 |
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