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みてある記特別編/ミュージカル三昧の旅-4
シルクハット Beauty and the Beast(美女と野獣)

おゆう
1997/11/1 ロンドン ドミニオン劇場にて



<出演者>
ビーストAlasdair Harvey/ベルJulie-Alanah Brighten
ルミエールJohn Polhamus/コッグスワースBarry James
ミセス・ポットMary Millar/モリースNorman Rossington
ガストンBurke Moses/ルフウRichard Gauntlett

<世紀の対決!?>
理想の王子さまは、劇団四季の石丸幹二クン(またの名をプリンス・マル)を置いて他には、世界中のどこを探したって居る訳がないと、固く信じている おゆうに対して、ロンドン版が「世界中で一番美しい王子様」と挑戦状(?)を突きつけられちゃーあなたっ、ロンドンだろうがパリだろうが、決着つけに行くしかないでしょう?

ドミニオン劇場
ドミニオン劇場
photo by おゆう
ってな事で、鼻息荒くロンドンのトッテナムコート・ロードに位置するドミニオン劇場に行って参りましたが、劇場に近付くにつれて、まず目に飛び込んできたのが、入り口の屋根に掲げられた「Be Our Guest」の場面の大看板の前に立ち尽くす、等身大(いや、それ以上だったかも。)のルミエール人形でありました。

「や、やるねぇ。」とここで既に少々敗北を感じるも「いや、まだまだ!」と気合いを入れ直して劇場に入りましたが、ディズニー作品という事もあってか、小学生くらいの子供達が団体で来ていました。もし学校行事の一環か何かで来ているのなら、ちっちゃなうちからこんな素敵な作品を観せてもらえて、なーんて幸せなのでしょう。

さて、数分後には夢と現の境界線を取り払うという、大切なお役目を担っている舞台のカーテンに目をやると、日本でもウィーンでも同じだった、エンジ色で裾に模様のついた見慣れたものではなくて、ビーストの横顔のイラストロゴが書かれたものでした。しかもお決まりの黒地ではなくて青色なので、ちょっと雰囲気が違って見えます。でも、序曲が始まるとすぐにこの青い幕は飛んで、エンジのカーテンになったのですが、むむ、カーテンも二枚仕立てであったか・・・おまけに、ベルの家もいかにも発明家のパパが建てたという感じで、全体のデザインは変わらないのに、家の横の小さな水車や、屋根の上の風見鶏みたいなものなどが、ちゃんと動くような仕掛けになっているのです。凝ってますねー。

次々と登場してくるキャラクターはと言えば、みんなアニメを充分意識した人選になっているようで(歌って踊れてという人材の中から、さらに選択の余地があるのは、層の厚さの違いとはいえ、やっぱり羨ましい限りですよね。)ベルは名前の通りの可憐な美女だし、ガストンも「町一番」という台詞に偽り無しの、ちょっと凄みの効いた、適度に(ここが肝心!)逞しいハンサムさん。強いて上げれば、ベルパパとミセス・ポットが自分の描いていたイメージとちょっと違うかな、という程度で、それでもアニメのイメージからそれほどかけ離れている訳ではないので、文句付ける余地などは無く、いつかしら自分もすっかりベルの住む小さな村の一員になって、彼女の行く末を案じておりました。

一時ブロードウェイ版CDに凝りに凝って、毎日の通勤時には耳がタコになるほど聞いていたのですが、こちらは朝の滅入りがちな気分を上げるのにはぴったりの元気良さで、ありったけの力でぐいぐい押してくるという印象でした。(実際の舞台はまだ観た事が無いので、あくまで耳で聞いただけの話ですけど。)それと比較するとロンドン版は演技的にもう少し繊細な感じがしますね。特に初めの登場から、心にほんの少しの曇りを感じるベル(彼女には、ちょっとした悩みがあるんですよね。)の演技などを考えても、その思いが一層強くなりますが、ここらあたりは劇聖シェイクスピアを生んだお国柄なんでしょうか? でも、真面目一辺倒って訳じゃないんですよ。ルミエールとコッグスワースのコンビは思いっきり笑わせてくれて、特にコッグスワースは執事という役柄上、イギリス人にとっては定番のお堅い雰囲気で笑いを取りたいところでしょうが、ちょっとアメリカン入っていて、とびっきりのお茶目ぶりがキュートなんだなぁ。

と、こんな風にあれこれ感心しているうちに場面は進み、いよいよビーストの登場です。ああっ、すんごく可愛いじゃないかー! 雑誌やポスターなどで、事前チェックはしていたものの、実物はそれを遥かに上回る可愛さです。ビーストといえば、もじゃもじゃカツラに素顔の判別がつかない程書きまくったメイクだというのに、かえってきれいなブルーの瞳が良く映えるのであります。うーん、こういう身体的特徴には、どんなに頑張ってもプリンス・マルは太刀打ち出来ん。ただ、声とか演技の方向はロンドン・ビーストもプリンス・マルも同質と見ました。つまり、若干軟弱と言えなくもな いけれど、絵に書いたような二枚目って事ですね。うん、好みのタイプ!ちゃんと御伽話してくれてるー。それに、このビーストは身のこなしが軽やかで、若々しさが強調されてますね。本来は二十歳の青年なんだけど精神的な成長がまだ不足している若者が、魔法でビーストにされてしまったという設定ですから、これもポイントを突いた表現ですなぁ・・・はっ、こんな所で納得している場合ではなかった。おゆうにとってなによりの問題は魔法が解けた後の王子の姿だったのでした。しっかりしなくちゃ。

そして、さらに場面は進み、とうとうその時がやって来ました。何十回と舞台を観ていても、王子への変身場面はいつもドキドキしちゃうんですが、今回は特にしっかり目を開けて検証しなければなりませんから、オペラグラスを持つ手にも力が入ってしまいます。深手を負ったビーストの首が、願い空しくガックリと垂れ、その亡骸にすがって嘆くベル。やがてビーストの体が少しずつ空中に浮かび上がって行き、ぐるぐるっと回り出す。白いブラウスに被われた、明らかに人間のものと思われる左手が出る。さらに右手が出る。そして照明が2、3回点滅すると、そこには愛の力で魔法が解け、人間の姿に戻った王子が・・・ う、う、美しすぎるーっ! 本当になんて美しい王子さまなんでしょうかっ。 盛装してドレス姿のベルと並んだ構図は、まさに一幅の絵。絵本でしか見られない王子さまが、本当に目の前に立っているなんて、夢のよう。ああタメイキ・・・

はっ、またここでウットリしている場合ではなかった。そうそう、ジャッジでした。それでは、世紀の対決の結果や如何に?

・・・・この勝負 −−−−「引き分け!」

ふふふ、何故ってロンドン・ビーストとプリンス・マルの違いを上げるとすれば、「人種が違う」って事くらいで、持ち味としては全く同系列なので、本当にどっちも甲乙付け難しなんですもーん。パンフレットの、ロンドン・ビースト(Alasdair Harvey氏)が今までこなしてきた役を見ても、ラウル(オペラ座の怪人)、マリウス、アンジョルラス(レ・ミゼラブル)、ビリー・ビグロウ(回転木馬)、クリフ(サンセット・ブルバード)、アレックス(アスペクツ・オブ・ラブ)、etc.と正統派二枚目青年の役を総なめ状態。しかも石丸クンがやった役ともぴったり重なるじゃありませんか。日本未公開のサンセット・ブルバードを、もし四季で上演するならクリフは石丸クンね! とこの作品を観ている友人も言っていたし。

という訳で、今回は「Harvey王子と石丸王子は良きライバル」って事でまとめさせて下さいませ。はい、お疲れ様でした。