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みてある記特別編/ミュージカル三昧の旅-3
シルクハット Tanz Der Vampire(ヴァンパイアのダンス)

おゆう
1997/10/29 ウィーン ライムンダ劇場にて



この10月にオープンしたばかりのウィーン製ミュージカル『 Tanz Der Vampire 』(ヴァンパイアのダンス)を、今回の旅で早くも観るチャンスに恵まれましたの でご紹介してみましょう。6年目の今年も快調のウィーン製ミュージカル『エリザベート』に続くヒット作となるかどうか、大変興味あるところなのですが・・

<あらすじ>
若い学生のアルフレードは、アブロンシウス教授と共にトランシルバニアにドラキュラ探索に出かけるが、雪山で道に迷ってしまう。寒さに倒れてしまった教授を、とあるユダヤ人の経営する宿屋に担ぎ込んで介抱してもらうが、目覚めた教授が見つけたものは、宿のそこかしこに掛けられているにんにくであった。これこそがこの付近に吸血鬼が現れるという証拠に違いないのだが、宿の村人達に尋ねても、みな一様に口をつぐんでしまう。

宿屋の主人夫婦には、サラという美しい娘がいるが、この娘は異常なお風呂好き。今日も宿屋に一つきりのお風呂に入っているところを、アルフレードに見られてしまう。その姿に若いアルフレードは一目惚れしてしまうが、もう一人サラを狙っている者がいた。近所の城の城主、クロロック伯爵。彼こそが恐れられている吸血鬼で、若い娘の生き血欲しさにサラを誘惑しようと浴室に侵入してくるが、アルフレードの転機で難を逃れる。しかし、お城で開催される舞踏会に行きたくてたまらないサラは、伯爵から届けられた赤いブーツを履いて、とうとう一人でお城へ出かけてしまうのだった。

サラを探しに出かけた父親、シャガールが死体となって発見されたが、首筋には吸血鬼に噛まれた形跡がある。そう、彼もまた吸血鬼となってしまったのだ。昼間、彼が寝ている間に止めを刺そうと、アルフレードと教授は心臓に杭を打ち込もうとするのだが、へっぴり腰で上手く行かない。とにかくサラを救出せねばと二人は旅行者を装って、一夜の宿を乞いにクロロック伯爵のお城へ乗り込んだ。

ライムンダ劇場
ライムンダ劇場
photo by おゆう
何も知らず、二人を快く迎え入れるクロロック伯爵。翌朝、二人は城内の霊廟でクロロック伯爵と家族が眠る棺桶を開けて、その心臓に杭を打ち込もうと試みるが、気弱なアルフレードにはどうしてもそれが出来なかった。伯爵の息子、オカマ(!)のヘルベルトに追い掛け回されて辟易としながらも、アルフレードは城内の浴室でサラを発見。家に帰ろうと説得するが、サラはどうしても舞踏会に出ると言う。夕闇が迫る頃、墓地の棺桶から次々と吸血鬼一族が目を覚まし、いよいよ華麗なる舞踏会の幕開けだ。

クロロック伯爵から一族に紹介されるサラ。しかし、舞踏会が最高潮に達する頃、吸血鬼に化けた教授とアルフレードの大立ち回りにより、サラは無事に救出されるのであった。さて、命からがらお城から逃げ出して、ここならもう安全という場所までやってきた三人。教授は吸血鬼との冒険談をメモするのに夢中になっているが、その背後では、背筋も凍る恐ろしい結果が・・・・



ロマン・ポランスキー監督映画「吸血鬼」の世界初ミュージカル化というふれ込みでしたが、映画の方は生憎と未見のまま、10月29日にライムンダ劇場へと向かいました。

この劇場、去年は「美女と野獣」が上演されていて、出演者のポスターの前でノンキに記念撮影などしていたのですが、今年は作品が作品なだけに、ちょっとおどろおどろしい雰囲気が漂ってきます。人の波をかきわけてロビーに入ってみると、黒いマントに黒ドレス、今しがた人を喰ってきたばかりのような真っ赤な唇のおねえちゃんが、首から箱を下げて、試験管に入った赤い血液様の飲み物を売り歩いていたりして、怪しげな雰囲気を盛り上げていました。この飲み物に興味をそそられるも、アルコール飲料だとイネムリしてしまいそうなので、残念ながらの辞退です。

座席について間もなく、開演アナウンスもないまま、突然激しい序曲と共に幕が上がったのですが、いやもう、音楽といい、装置といい、衣装といい、とにかく賑やか派手派手系の作品で、ドイツ語なんて全然わからない外国人(あたしの事です。(^^;) にも充分楽しめそうな予感のするものでした。特に手の込んだ重厚な装置はすごいです。田舎の宿屋とか、墓場、棺桶、吸血鬼の住む館など、色味としては真っ黒って感じでしたが、こういうどっしりと重たげな装置を、ハイテクでガンガン移動させてしまうのですから、驚きです。

また、客席も舞台の一部と見なしているようで、遠くへ逃げるシーンでは客席通路を俳優さんたちがバタバタと走り去るし、幻想場面では、吸血鬼たちがこわ〜いメイクのまま、いつの間にやら客席の支柱に張り付いて歌ったりと観客サービスも怠りません。そうそう、シルエットも効果的に使っていて、クロロック伯爵の登場シーンでは、客席から現れるマント姿の伯爵に逆スポットを当てて、舞台の中幕に、お馴染み吸血鬼の影が出るようにしていたのなんて、恐怖感を煽っていいですね。

ところが。てっきり恐い作品と思って観ていたのに、気が付いてみれば、観客が至る所でクツクツ笑うんですよ。そういえば、伯爵は吸血鬼のクセしてどこかオトボケっぽいし、息子はホモだ。吸血鬼一族が墓場から起き上がってくる場面もなんかオマヌケだったっけ。アルフレード君は弱虫・軟弱小僧だし、教授は見た目がアインシュタインかフロイト博士かって感じ。宿屋の主人はユダヤ人という設定だそうだけど、殆ど「屋根の上のヴァイオリン弾き」のテビエだね・・・

エエッ? このミュージカルってコメディだったのねー! こりゃ、完璧に一本取られましたな、ははは。という訳で、映画が未見だったのが幸いしてか、現地の観客と一緒に笑う事は出来ないまでも、より楽しくこの作品を観る事ができたようです。考えてみれば「お風呂好きの娘」ってのも、通常のミュージカルのヒロインの性格付けからすると、結構ヘンですよね。

さて、クロロック伯爵役の Steve Barton氏ですが、この方「美女と野獣」ではビーストを演じていらっしゃいました。でも、オジさんで顔は大きいし(失礼!)ガッシリ体型なものですから、この姿で若い王子を演じるのは、外見上かなりの ハンデだなと思わずにはいられなかったのですが、朗々たる歌いっぷりも素晴らしく、このヴァンパイアにはうってつけでした。しかも、こんなにそれぞれの役柄が明快だと、観ている側から日本での配役が次々頭に浮かんできてしまうのです。以下は おゆう の独り言ですが、ちょっと書いてしまいましょう。まずは劇団四季バージョンで・・・
クロロック伯爵今井清隆おじさんだからという訳ではなくて、ユーモラスな持ち味と、大きさと歌唱力から。
アルフレード石丸幹二弱虫クンだけど、奇麗なテノールを聞かせてくれるんですよー。
サラ保坂知寿入浴場面が多くセミヌードの見せ場がたっぷりなので、バツグンのスタイルを誇る彼女に。但し舞台上では、肌色タイツ着用です。男性諸君、おあいにくさま!
アブロンシウス教授光枝明彦歌が歌えるじいさん役は、ズバリでしょう?
宿屋主人・シャガール河原洋一郎ユダヤ人テビエの扮装がぴったりだと思います。
その妻・レベッカ末次美紗緒肝っ魂かあちゃんといえばこの人でしょう。でも少し若すぎるかな?
伯爵の息子・ヘルベルト下村尊則オカマっぽい役には、どうしても彼が浮かんできてしまうのです。
ふむふむ、我ながら上出来のキャスティングだわ。お次は東宝バージョンで。でもこちらは元がスターシステムですから、タイトル・ロールを演じるような人と、その他の役者さんとの差が大きすぎて意外に名案が浮かびません。その点がちょっと苦しいかな。
クロロック伯爵鹿賀武史「料理の鉄人」の「アーラ・キュイジーン」のノリで出来てしまいそう。
アルフレード石川禅見た目はあまり弱虫クンに見えなさそうだけど、演技力で軟弱な役をやってもらいましょう。
サラ*****う〜ん、この配役が一番困りましたね。やっぱり島田歌穂ちゃんあたりにご登場願うしかないかしら。でも彼女では立派すぎちゃって・・・
アブロンシウス教授笹野高史ばくまっちゃんのファンなもので、彼の舞台が観たいだけなのです。悪しからず。
宿屋主人・シャガール小野武彦見た目はぴったりだと思うのですが、そういえば彼の歌って今まで聞いた事ないんですけど、大丈夫かしら?
その妻・レベッカ荒井光子「屋根・・・」のフルマセーラになっちゃたらちょっと恐すぎるかも。
伯爵の息子・ヘルベルト岡幸二郎ウィーンの役者さんのイメージともぴったり重なります!
という訳で、つい個人のお遊びに走ってしまいましたが、日本での上演が行われたら楽しいでしょうねー。そういえば、かつて松本幸四郎さま主演で「ドラキュラその愛」というお芝居が上演された事がありまして、こちらはシリアス物でしたが、かっこいい幸四郎さまのドラキュラ見たさに、ずいぶん通ったものでしたっけ。あ、ウィーンのヴァンパイアから話が外れてしまいました。(^^;