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カチンコ ノーマ・ジーンとマリリン

TAR
(84789734@people.or.jp)
'97/12/13 関内アカデミーにて
艶やかさの裏に秘められた愛への渇望と、決して満たされることのない心。そして、女優として認められたいと言う、純粋な願い。誰も知らないマリリン・モンローがここにいる。

幼い日から女優になるまでの、強い目的意識を持ったノーマ・ジーンと、女優として活躍しながらも心が満たされないマリリン・モンローを、人格の分裂と言う形で表現し、波乱に満ちたマリリン・モンローの生涯を描いた作品です。全体に、あまり悲劇っぽい作りではなく、お涙頂戴の映画ではありません。ノーマ・ジーンとマリリン・モンローは、同一人物でありながら非常に対照的に描かれています。

過去の辛い思い出を振り払おうと、20世紀FOXとの契約を結ぶと同時に、彼女は過去のものとなったノーマ・ジーンを(心の中で)殺してしまいます。この後、けっして長いとは言えない生涯、ノーマ・ジーンの幻影に悩まされ続け、薬と酒に頼る様になっていくのです。
ノーマ・ジーンはモンローの部屋に、楽屋に現れては「そんなことをやっていていいのか」「馬鹿女の役ばかりやるな」「自分で役を選べ」「昼まで寝ている様な女が子供を育てられると思っているのか」と執拗に攻撃します。そして、モンローの精神状態はどんどんと悪化していくのです。チラシに書かれている「誰よりも人に愛されたいと思いながら、自分自身を愛することができなかった孤独な一人の女性」と言う言葉は、実に見事です。
モンローは演技ではなく「体」ばかりが話題にされることをずっと悩んでいたそうですが、この映画を見ると何とも言えなくなりますね。実際に体を使ってスターへの道を歩んで行った訳ですから。しかし、そのとらえ方が、ノーマ・ジーンとモンローとで全く異なるところが興味深いです。ノーマ・ジーンにとってそれは、成功への強力な武器です。しかし、モンローはそこに愛を求めているのです。登場する二人はかなり大胆に脱いでくれます。が、その体の見せ方を取っても、ノーマ・ジーンは攻撃的で、モンローは愛への渇望を感じさせます。とにかく、この全く異なる二つの人格のせめぎ合いが、実際は一人しかいない彼女を苦しめる訳です。

彼女が実際に分裂症状に悩まされていたのかどうか私は知りませんし、パンフレットでも触れられていません。彼女の持ち続けた悩みを分裂と言う形で表現したのかも知れませんが、複雑で謎に満ちたマリリン・モンローと言う人物描く上で、非常に面白い手法だと思います。

ところで、考えさせられてしまうのが「子供にとっての家庭環境」です。ノーマ・ジーンは私生児で母親は精神病。里親に引き取られながらもそこの父親が彼女にいたずらをした為に孤児院に入れられ、「愛」が何たるかを知らないまま成長したのです。愛を求めながら、愛を知らない故、けっして人生に満足することができなかった悲しい女性、マリリン・モンロー。そんな姿が浮かび上がる作品でした。

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点0点 心の葛藤とは言え、まさに女と女の戦いです。