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ニューヨーク検事局のショーン・ケイシー検事補(アンディ・ガルシア)の父親であるリアム・ケイシー刑事(イアン・ホルム)が麻薬犯逮捕の時、撃たれて重傷を負います。麻薬犯は弁護士のビゴダ(リチャード・ドレイファス)のところに出頭し、裁判となります。地方検事はその担当にショーンを抜擢し、彼はそれにこたえて麻薬犯を有罪に追い込むことができました。しかし、その裁判でビゴダは警察が麻薬犯から金をせびっていたことを実証しようとし、内務観察課が汚職警官摘発に動き出します。一方、ショーンは一躍時の人となり、病気で次の地方事選に出られなくなった現検事のピンチヒッターとして地方検事に立候補し見事当選します。ところが内務観察課の捜査の手がショーンの父とその相棒にまで伸びてきていたのです。 かつて「プリンス・オブ・シティ」や「Q&A」で汚職警官のドラマを通して正義とは何かを問い掛けてきたシドニー・ルメット監督の最新作です。今回は若い検事補を主人公として、理想と現実の間の灰色の部分にスポットをあてています。アンディ・ガルシア、リチャード・ドレイファス、イアン・ホルム、ロン・リーブマンといった演技陣が重厚で説得力のある演技を見せてドラマを盛り上げますが、単に重いだけのドラマになっていないところに、脚本も兼任したルメットのうまさが光ります。 主人公が完璧であろうとがんばるのですが、現実の前にそうはいかなくなっていくところを丁寧に見せます。また、完璧たらんとする主人公にアドバイスをするのが弁護士のビゴダであるという設定がうまいと思いました。大事なものが何かを見失いかける主人公が、唯一信頼を置くのがまるっきり外部の人間であるというところはちょっと思い当たる節がありますもの。 一方、分署ぐるみで麻薬犯から金をせびっていたという、とんでもない警官が登場するのですが、それが当たり前なのではないというところをきちんと見せた上で、でもそういう事に良心の痛まない警官もいるというところも見せます。結局主人公は法と情が板挟みになって苦悩するのですが、単に苦悩するだけで終らないところにこの映画の見所があります。法を守るより以前に守るものがあるという描き方は、ちょっと間違えると、人間なんだから人情におぼれても仕方がないという事になりかねません。でも、この映画はそうは言いません。正義を行うため法があるが、法は手段であって目的ではないというところを見せます。それを法の番人である、検事や弁護士に言わせるあたりにこの映画の奥行きがあります。 法に頼らなければ、それは個々の人間のエゴで物事の正/不正が決まってしまうことになります。だからこそ、個々の人間がその責を負わなければならないのですが、ラストで主人公が、若い検事補たちに「だから覚悟しろよ」とスピーチするところが泣かせます。人間は弱いものですが、その弱さを受け入れて、かつ否定しなくちゃいけないのですから大変です。こういう見せ方をされると、普段、物事の正しさから目を背けている私なんかは結構コタえてしまいます。でも、映画全体は娯楽作品としてきちんとできていますし、名優の演技も堪能できますのでご覧になってやな気分で劇場を後にするようなことはないと思います。 人によってはこの結末を甘いと感じる方もいるかもしれないと思ったりもするのですが、ともかく一度ご覧になって頂きたい映画であります。こんな世の中で、正しいことをしようと、前を向いたら一体何が見えるのか、その一つの例を示してくれる映画だと思います。
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