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ウディー・アレンが初めて手掛けたミュージカルという触れ込みですが、本人によればミュージカルというより、登場人物が演技の延長線上で歌ったり踊ったりして感情を表現するコメディー映画なのだそうです。ですから、今までのミュージカル映画のように俳優の歌やダンスの技を鑑賞するのではなく、もっと身近なところで音楽というものを楽しむ作品になっています。 出演している俳優がすこぶる豪華です。特に日本で顔が売れている面々としては、ゴールディー・ホーン、ドリュー・バリモア、ジュリア・ロバーツ、ナタリー・ポートマン、ギャビー・ホフマン、ティム・ロスなどが登場します。特にゴールディー・ホーンファンの方は必見。彼女の最近の出演作品の中では本作がピカ一です。そうした有名スターがあまり上手とは言えない(?)歌声を次々を聞かせてくれるのですが、いつもは「俳優」の顔しか見せない彼らが、本作では歌の場面で「俳優」以前の人間としての「素」を垣間見せてくれるところがうれしいです。しかも面白いことに、そういう彼らの「素」の部分が登場人物のリアリティーにつながっていて、メンツだけ立派で中身が空っぽという、単なる顔見せ映画にはなっていないのですね。 こうした昔懐かしいミュージカルのお約束どおり、ニューヨーク、パリ、ヴェニスのロマンチックで美しい四季を舞台に、あるブルジョア一家の優雅な生活ぶりがユーモラスに描かれてゆくわけですが、アレンはその中に彼独特ののシャレや皮肉を散りばめることを忘れてはいません。 別れた妻(ホーン)に未練があって、いつも失恋ばかりしている男(アレン)。彼は元妻の一家と仲が良く、失恋の悩みを彼らに聞いてもらっています。男とホーンの間に生まれた娘(ナターシャ・リオン)は、父親が一目惚れした人妻(ロバーツ)とうまく行くよういろいろアイデアを出してます。そんな彼女はハンサムに目がなくてゴンドラのお兄ちゃんやらラッパーやら理想の人探しに忙しいようです。ホーンと新しい夫(アラン・アルダ)の間には2人の夢見るお年頃の娘がいて、これがポートマンとホフマンの美少女コンビ。さらに夫の2人の連れ子(バリモアと「マーズ・アタック」のルーカス・ハーズ)も同居しているし、徘徊癖のあるおじいちゃんとかゲシュタボみたいにおっかないメイドのおばさんなども登場します。バリモアと婚約中の彼氏(「真実の行方」のエドワード・ノートン)はなんだか頼りなげ。彼女は慈善事業の好きな母親が自宅に連れて来た仮出所中の凶悪犯(「フォー・ルームズ」のティム・ロス)のワイルドな魅力に参ってしまいます。 というように、入りくんだ関係の登場人物の話があっちに飛んだりこっちに飛んだりするのですが、全てがゴールディー・ホーン演じるヒロインに帰着するカタチを取っているので、不思議と散漫な印象は受けません。それでいてそれぞれのエピソードの面白いところだけしっかり笑わせてくれる作りはさすがだなぁ、と思いました。私など、アレンの映画と言えば「面白いけどちょっと難しい」という印象が強いのですが、この作品は「とにかく難しいことは言いっこなし、まずは楽しい!」映画です。それでいて見終ったあと「面白かったけど結局何だったんだろう?」という空しさが残らず、しっかり心のビタミン剤になってくれるのがうれしいです。 なお、アレンの映画には珍しくSFXシーンが登場します。でも、その使い方がいかにもアレンらしくて、思わず拍手したくなります。どんな使い方なのかは、ぜひ劇場でお確かめください。
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