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夜のニューヨークを逃げ回る全裸の男二人、そのうちの一人がグラマシー総合病院に担ぎ込まれます。担当医のガイ(ヒュー・グラント)の目の前で、男は異常な症状を見せて、息を引き取ります。その男の検査結果がまたおかしな値。ガイはこの男を調査しようとするのですが、上司からは忘れろと言われるし、死体はどこかに消えてなくなっているではありませんか。陰謀の匂いを嗅ぎ取るガイ。一方、研究所のマイリック博士(ジーン・ハックマン)も、逃げた男の消息を追いかけていました。そして、ガイが事の真相に迫ろうとしているのを知り、恐ろし罠をしかけてきます。果たして、異常な症状を見せた男に秘められた陰謀の正体とは? そして、ガイの運命は? のっけから、素っ裸の男が夜の街を逃げ回るというショッキングなシーンから始まるこの映画ですが、病院を舞台に何やら陰謀が渦巻いているようです。病院という場所が、それ自体が何だか怖くて苦手な私には、相当コタエるスリラーになっていました。先にちょっとだけネタをばらしますと、この映画は臓器売買のお話ではありません。「ボディバンク」という邦題が、そういうイメージを与えてしまうのですが、陰謀の正体は、似て非なるものです。でも、医療の倫理についてのテーマは抑えています。目的のためなら、手段を選ばないという連中が企む恐しい陰謀です。 この映画には、現代の医療の色々な問題が散りばめられています。病院の検査なんていい加減で医師ですら全然信用していないとか、身元不明の死体が消えてもあまり気にしないとか、救うべき命の優先順位とか、それらのエピソードが積み重なるうちに、ひとつの陰謀に集約されてくるあたりの構成はお見事です。特に主人公の上司が「病院は研究所じゃない。修理工場だ。」というあたりが印象的です。医療と一口に言っても、研究所と修理工場に大別されるというのが、カギでして、この映画は、研究所の側の人間の倫理観が問題にされているのですよ。しかも、「目的のためなら手段を選ばない」というところの「目的」の部分を丁寧に描くことによって、不気味な説得力が生まれました。クライマックスで、陰謀に加担するように説得するハックマンの説得力が、主人公を葛藤させるのが圧巻です。久々にジーン・ハックマンの本領発揮の見せ場になっています。 主人公のガイが、正義感とか倫理感とかでなく、純粋な興味から事件に深入りしてしまうという展開からして、肩肘張ったお医者さんのドラマではありません。しかし、シンプルなスリラーの形をとりながら、そこに見せるテーマは結構重いものがあります。マイケル・アプテッド監督は、前半は病院の救急医療の様子をリアルに描き、後半の研究所のシーンにおける「人の命の見え方の違い」をうまく見せました。同じ人間でも、それが研究対象となってしまえば、もはやそれは命と呼べる代物ではなくなってしまうようなのですよ。
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