みてある記 ロゴ25pt.

シルクハット ピーターパン

おゆう
夢in HPを通じてお便りを下さった NANAさんに刺激を受けて、今夏で17年目という公演記録を持つ、ブロードウェイ・ミュージカル「ピーターパン」を初めて観てみました。

<主な出演者>
ピーターパン宮本 裕子/フック船長&ダーリング氏佐山 陽規
ウエンディ松下 恵/ダーリング夫人榊原 るみ
海賊スミーウガンダ・トラ/タイガーリリー&ライザ八重沢 真美
海賊ケイト田中 利花

<あらすじ>
イギリスはロンドンのダーリング家に、ダーリング夫妻がパーティに出かけたある晩、子供たちの眠る寝室に空を飛べる不思議な少年がやってきます。少年の名前はピーターパン。以前ウエンディの「お話」を聞きにこっそりやってきた時に、犬のナナに取られてしまった自分の「影」を取り戻しにやってきたのですが、どうしても「影」は元どおりにくっついてはくれません。悲しくなって泣き出してしまうと、その声を聞きつけて目を覚ましたウエンディが、優しく縫い付けてくれました。お礼にとピーターパンは、ウエンディ、ジョン、マイケルの三姉弟に空を飛ぶ方法を教え、4人でピーターパンの住む国、ずっと子供のままでいられる国、ネヴァーランドへと出かけてゆくのでした・・・

<感想>
子供たちの夏休みのイベントとして定着して久しい「ピーターパン」ですが、観るきっかけがなかなか掴めなくて、上演17年目にしてようやくの初見でした。従って比較の元となるのがディズニー・アニメの「ピーターパン」になってしまうのですが、実はディズニー・アニメの中で最も好きなのがこの「ピーターパン」でして(因みに2番目は「アラジン」です。空中遊泳モノに弱いという好みがバレバレ・・・)相応の思い入れもあるのですが、まず、舞台版での最大のポイントも、やはりピーター・フォイ氏デザインのフライングシーンでしょう。

歌舞伎界では「宙乗り」という技術が昔からありますし、他のミュージカルやショーでもフォイ氏のフライングは観ていましたので、まあそんなものだろうとタカを括っていたのですが、これがとんでもない間違いでした。人間をピアノ線で吊って移動させるなんていう単純な動きではなく、青山劇場の舞台の幅いっぱいに、ピーターパンが、ウエンディが、ジョンが、マイケルが、右に左にと文字どおりダイナミックにフライングするのですから、観ているだけでも、まるで遊園地のジェットコースター並みの爽快感を与えてくれるのです。うう、あたしもやってみたい!なんてつい思ってしまいましたから、このシーンだけでもワクワクドキドキで、観る価値充分でした。

フィナーレでは、ピーターパンが客席に向かってフライングしてくれて、観客にキラキラ光るティンカーベルの「妖精の粉」を振り掛けてくれるという大サービスで、これには観客も大喜びでしたね。家に帰ってから飛ぶ練習をする子供が本当にいたら嬉しいな。

さて、物語の展開としてはアニメ版と大きく違うところが、ふたつありました。ひとつはフック船長がピーターパンに飲ませようと、木の実のジュースに毒薬を仕込むのですが、それを知ったティンカーベルがピーターパンを助けようと、自分がそのジュースを飲んで命を落としてしまうのです。そこでピーターパンは客席に語りかけます。「誰にでも生まれた時から妖精が一人ついてくれているのに、その存在をいつしか信じなくなるから、妖精はみんな死んでしまう。でも皆が今その存在を信じればティンクは生き返るかもしれない。信じる人は拍手を!」てな事で、客席から拍手をもらったティンクは見事息を吹き返すという段取りです。ああ、言い忘れましたが、舞台版でのティンカーベルは、自在に形を変える緑色のレーザー光線で、その存在が表現されていました。

もうひとつは、ウエンディ達が我が家に戻ってからなのですが、一緒にネヴァーランドから連れてきた迷子たち5人も、ダーリング家に引き取られる事になりましたし、「春の大掃除の頃にきっとまた会いに来る」と約束してから、再びピーターパンがやって来るまでに、なんと20年もの歳月が流れ、ウエンディは結婚して当時のウエンディと同じくらいの年頃の女の子のおかあさんになっていて、再会したピーターパンに「もう、ネヴァーランドへは行けないの。私は大人になったのよ。」と淋しそうに告げるのです。永遠の少年であるピーターパンには、その事実が受入難いのですが、それならと、今度はウエンディの娘ジェインを連れて、高く高く空を飛んでいくのです。

アニメとは違うこの2個所がどうも教訓めいていて、押し付けがましく、浮世の垢にすっかりまみれてしまっているあたしには、どうも素直に受け止められませんでしたねぇ。いきなり子供を5人も引き取るなんて、すごい裕福な家庭なのね・・・とか、大人になるってそんなに魅力ないのかよなどとツッコミ入れたくなってしまうのです。ピーターパンとの冒険旅行は、ウエンディの見た夢だったのかもしれない。けれど大人になっても何かは忘れずにいたいね、というアニメのメッセージの方がすんなり心に響きますし、なによりウエンディ自身が「私、大人になりたいの。」と言っているのですから、この冒険を通して彼女はしっかり成長しているんですよね。んー、子供の頃や、もっと若い頃にこの作品を観ていたら、もっと違った感想になったのでしょうか?

舞台の「ピーターパン」を観てから、久しぶりに古〜いアニメのビデオを奥のほうから引っ張り出して見たのですが、十何年も前に録画したものですっかり忘れていたけれど、ピーターパンの吹き替えをやっていたのが、初代ピーターパンの榊原郁恵ちゃんでした。で、今改めて見直してみると、郁恵ちゃんの吹き替えの上手なのにびっくりでして、彼女の舞台なら、すごく良かったに違いないとつくづく感じ入ってしまいました。今回は宮本裕子のピーターパン。華やかで可愛らしく、少年らしいスリムな体型はぴったりなのですが、歌とか演技に少々物足りなさを覚えたので、余計に郁恵ちゃんの吹き替えがうまく聞こえてしまったのかもしれませんし、ウエンディももう少しキャリアのある役者がさんがやっていたら、大人になってしまったウエンディの寂しさに、共鳴できたのかもしれません。