みてある記 ロゴ25pt.

カチンコ セイント

ジャックナイフ
(64512175@people.or.jp)
'97/6/28 静岡 静岡有楽座にて
ちょっと懐かしさも感じる大冒険活劇、でも今だから却って新鮮

オープニングは主人公セイント(バル・キルマー)のちょっと暗い少年時代、それが現代へ移ると、さっそうと登場怪盗セイントって訳です。最新テクを駆使し、その上変装の名人です。ロシアの高官トレティアックからマイクロチップを盗んでガッツポーズのセイント君。ところが当のトレティアックから、低温核融合の方程式を盗む依頼を受けます。盗む相手はアメリカの物理学者エマ・ラッセル博士(エリザベス・シュー)なのですが、事もあろうにセイントとエマは恋に落ちてしまいます。また、実はトレティアックってのはロシアを征服し、さらには世界征服を企むすごーい悪い人だったのです。エマ共々命を狙われる事になっちゃうセイント、その上トレティアックはロシアでクーデターを起こそうとしています。果たしてセイントはここで起死回生の逆転技を放つことができるのか?!

原作は1920年の小説で、過去に何度も映画やテレビになっている作品です。展開的には、ロシアの現状とか、めったやたらに発砲しまくる悪党どもとか、今風の味付けはされてますけど、全体を流れるトーンはどちらかというとおっとりした冒険モノという印象です。セイントが人を殺すのをためらったり、最後に悪党が死ななかったり、クライマックスが大爆発じゃなかったりと、最近のアクション映画のお約束を結構裏切ったつくりになっています。最近のド派手アクションに慣れた人には物足りないかもしれませんが、ロケとか舞台設定にお金をかけてるようで、安っぽくならない画面作りが見終わってなかなかの満腹感があります。

また、ロシアという国が燃料不足でひっくり返りそうだという強引な設定とか、低温核融合というわかったようなわかんないような小道具、地下水道を逃げ回る主人公達とか、いかにも冒険小説を読むような趣があります。私なんぞは幼い頃読んだ海野十三の少年海洋冒険小説を思い出してしまいました。リアリティとは一線を画すこれらの道具立てを楽しめるか、退屈と思うかでこの映画の評価は変ってくるでしょう。私なんぞはこの異国情緒と大時代な設定を楽しんでしまいました。それに主人公とヒロインのラブストーリーも古風なくらいお約束の展開なんですよ。

でも、ちょっと面白いのが主人公二人のキャラクターでして、セイントは金で動く怪盗という設定ながら、ターゲットの女性に本気で惚れちゃうあたりは結構オマヌケですし、そのセイントに惚れられて、自分もゾッコンになっちゃうエマも、古風なドラマにお姫様のようなキャピキャピぶりです。セイントの正体がわかってからも、彼を追っかけてロシアまで出かけて行っちゃって、悪党どもに狙われちゃうオマヌケぶり。なんとも二人とも愛敬のある、一歩はずしたキャラクターになっています。

フィリップ・ノイスの演出は、要所要所にシリアスなアクションを織り込みながらも、全体を紙芝居のようなお話の面白さで楽しませてくれます。世界をまたにかける怪盗がいて、世界征服を企む悪党がいて、画期的なエネルギー理論があって、美しいヒロインがいて......と今時アニメにもならないような題材を、お金をかけて映像化した腕はなかなかのものと申せましょう。また、グレアム・レベルによる音楽が、渋めの作りの画面のテンションを上げること上げること。シネスコの大画面での群集シーンなんて見てると、こういう映画を劇場で観ることができてよかったと思ってしまう私は貧乏性なのでしょうか。

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点(6/10) 傑作じゃないけど、娯楽映画の佳作。みんなで観ようよ
画面に落ち着きが感じられるのは何故?