みてある記 ロゴ25pt.

シルクハット 花組・東京宝塚公演

魔女っ子★マキ
(88721053@people.or.jp)
'97/6/18 東京宝塚劇場にて
「失われた楽園」は1930年代黄金期のハリウッドを舞台に敏腕プロジューサーと新人女優の切ない恋を描くミュージカル。後半は南半球をイメージしたダンシング・ファンタジー「サザン・クロス・レビュー」。

「失われた楽園」というタイトルから、私は古い文芸作品の舞台化だろうと勝手に思い込んでいたのですが、これは30年代のハリウッド黄金期を舞台にした新作オリジナルだそうです。ハリウッド一のやり手と言われている若きプロジューサー(真矢みき)と新人女優(千ほさち)との短い恋の物語を軸に、虚飾と陰謀うずまく映画界の内幕を描いた、今までの宝塚とはちょっと趣向の違った作品に仕上がっています。主役から脇役に至るまで登場人物全てがキメ細かく丁重に描かれていてストーリー展開にも無理がなく、その面白さにグイグイと引き込まれてしまいました。内容は全然違いますが、物語の雰囲気とか結末の切なさなどは「華麗なるギャツビー」や「ライムライト」を連想させます。

陳腐なタイトル(ゴメン!)に似合わない洗練度の高い舞台に、おや?と思って作者を調べてみれば、やっぱりこれは小池修一郎氏の作品だったのですね。うーん、納得です。プロジューサーが絶大な力を持っていたことや脚本家の地位が低くほとんど使い捨て状態だったことなど、映画ファンが喜びそうな当時のハリウッド裏事情がいろいろ描かれていたのもうれしかったです。

主演の真矢みきは、傲慢な野心家だけれど純粋な少年の心を合わせ持った主人公にピッタリのはまり役でした。今回は彼女特有のアクの強さも控え目で全体的に演技過剰になっていなかったのが良かったです。2番手愛華みれ演ずる落ち目のベストセラー作家は、どう計算しても年齢は35前後のはずなのですが、そのわりには若すぎましたね。まぁ、相変わらずさわやかな個性は好感が持てましたけど。脚本家をめざす雇われライターを演じた香寿たつきは、相変わらず芸達者なところを見せてくれました。「エリザベート」の皇太子の役と同様、今回も大変悲劇的な役柄でしたが、一時期よりもずっとスリムになりましたね。この人は太るとたちまちオヤジ臭くなるのが玉にキズです。娘役トップとして大抜擢された千ほさちは、役柄自体が新人女優ということもあり、歌や演技の硬さもあまり気になりませんでした。あと、今回の舞台で退団が決まった海峡ひろきの悪役がなかなか魅力的。他に岸香織や星原美沙緒など脇役も手堅く固めていて、作品に奥行きを加えています。

後半の「サザンクロス・レビュー」は、南国をイメージした原色と光いっぱいのレビューで、作・演出は個性的なショー作りで定評のある草野旦。タンゴやサンバなど明るくエネルギッシュな音楽にあふれた華麗な舞台は、梅雨空のうっとうしさを吹き飛ばしてくれます。両作品とも最近の宝塚作品の中ではかなり高水準の仕上がりとなっています。