みてある記 ロゴ25pt.

カチンコ 奇跡の海

魔女っ子★マキ
(88721053@people.or.jp)
'97/5/13 渋谷シネマライズにて
「ヨーロッパ」「キングダム」のラース・フォン・トリアー監督が一組の男女の究極の愛を描き、昨年度のカンヌ国際映画祭審査員グランプリほか数多くの映画賞に輝いた感動作。

巷では何年に一度出るか出ないかの映画とか言われてえらく評判がいいのですが、実際に見てみてなるほどなぁ、と納得してしまったのでした。ともかくこの映画を見て涙を流さない人はまずいないでしょう。

映画の舞台は1970年代初頭のスコットランド北西部の寒村です。この土地は清教徒の流れを組むカルビン派の厳しい戒律が支配していて、教会とそれを支える長老会が大きな力を持っていました。村の娘ベスは、よそ者ヤンと出会い恋に落ちます。信心深いベスにとって、ヤンは神さまからの贈り物なのでした。幸せ一杯の新婚生活。でも、ベスの義姉であり親友のドドは、ベスの思い込みの強い性格を案じ、彼女がヤンを愛しすぎることに一抹の不安を感じるのでした。

やがて不幸にもドドの不安が的中、ヤンが仕事先の海上の石油採掘現場で大怪我をしてしまいます。命を取りとめたものの、全身マヒの重症です。強すぎた愛がヤンを不幸にしてしまったと思い込んで自責の念にかられるベス。そしてヤンもまた彼女の豊かすぎる愛に答えることができず苦悩するのでした。自分のためにベスの人生が犠牲になることを恐れたヤンは、彼女に愛人を作るようにと言い聞かせるのですが・・・。

さて、ここからがこの映画の興味深いところです。普通、愛する夫から「愛人を作れ」と言われれば、悲しみ怒らない妻はいません。ベスも最初はそうでした。ですが、彼女は夫をなんとか治してやりたい。彼女は神さまと対話します。驚いたことに神の言葉が彼女自身の口からこぼれ落ちてきます。「愛のあかしを見せよ」。もともと精神的に不安定な気質であった彼女は次第に自分の思い込みの世界に閉じこもってゆきます。

この映画は、大変厳しい宗教観を背景にした作品ではありますが、監督自身が「これはシンプル・ラブ・ストーリーだ」と言っているとおり、この映画の描く「愛」と「善」は、民族や宗教を越えて見る者の心を大きく揺さぶります。「愛」と「善」、それは時には残酷であり、不幸の源にもなり得ることを、私達は現実の生活でいやというほど知らされています。ではその先に何があるのか?それがわからない枯渇感といらだち。この映画はそんな私達の渇きかかった心の泉になみなみと水を注いでくれるのです。

「愛の奇跡」なんて、言葉にしたら陳腐な響きになってしまいますが、それをカタチでしっかり見せてくれた感動は大きいです。この映画を見た人は皆、その存在を信じたいと願っている自分に出会うことでしょう。

お薦め度 採点 ワン・ポイント
◎ 2点2点2点2点1点(9/10) 究極の西洋版・水垢離/ミズゴリ という見方も
映像的な技巧も見どころの一つ