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シルクハット クレイジー・フォー・ユー

おゆう
日生劇場にて
リズミカルなダンスとガーシュインの名曲がいっぱいの、元気なミュージカル「クレイジー・フォー・ユー」が日生劇場に帰ってきました。

<主な出演者>
ボビー・チャイルド加藤 敬二/ポリー・ベイカー濱田 めぐみ
ランク・ホーキンズ河原 洋一郎/アイリーン・ロス末次 美紗緒
ベラ・ザングラー広瀬 明雄/エベレット・ベイカー松下 武史
ボビーの母北村 昌子/テス小野 佳寿子
<あらすじ>
1930年代のニューヨーク。銀行家の息子ボビーは、家業よりダンスを踊る事が好きで、仕事も婚約者もそっちのけ。今日も自分を使ってくれないかと劇場主のザングラーに売り込もうとするが、上手く行かない。そんな息子を見かねた母親は、遠く離れたネバダ州の田舎町、デッドロックへと抵当物件の差し押さえに行かせるが、物件は古びた劇場であった。その劇場の持ち主の娘、ポリーに恋してしまったボビーは、なんとか彼女に気に入られようと、すっかりすたれてしまったこの劇場で、ショーを上演して劇場を救おうとするのだが、彼が劇場を差し押さえにきた張本人だと知ったポリーは、この申し出をぴしゃりと断るのだった。さて二人の恋のゆく末は?

という訳で、物語はいたってシンプル。ある青年が女の子に一目惚れしてしまい彼女の気をひこうとすったもんだの末に結ばれ、他にも何組ものお似合いのカップルが誕生してよかったね! というハッピーエンディングものです。

4年前の日本初演の公演を観た時には、出演者がギャグ満載のコミカルな演技に慣れていない様だし、ボビーの幻想の中に現れてくるショー・ガール達の場面等が、派手な宝塚のショーに洗脳され切っている者には、なんだか地味目で、宣伝文句ほどじゃないんじゃないの・・・という印象でした。

だがしかし。今回はそんな事はすっかり忘れて、軽い感覚の取り違えラブ・コメディに、お腹を抱えて思う存分笑わせて頂きました。

初演当時は、アクロバティックなダンス力のみが先行してしまって、大汗かいて衣装がビッショリ・・・ダンス・リサイタルじゃないんだから、そんなに力まないでくれ〜なんて思ってしまった加藤敬二。回を重ねてハイレベルなダンスにも余裕が出てきたのでしょうか。訓練された肉体で表現されるユーモラスな芝居に、もうゲラゲラ状態。本物ザングラー氏と偽物ザングラー氏の、へんてこなミラーアクションなんて、ぜひもう一度見たいです。

さて、男勝りの女の子、ポリーは本役の保坂知寿ではなく、新人さんの濱田めぐみがキャスティングされていましたが、若々しく伸びやかな演技には好感がもてました。役柄としては「美女と野獣」のベルよりも、こちらの方が彼女に合うのではないかしら? いずれにしても、将来に期待したい女優さんの一人ですね。

他にも、実力のある俳優さん達がガッチリと脇を固めて、とても見応えのある作品になっていましたが、末次美紗緒がボビーの婚約者のアイリーン役ということで、年齢的にちょっとキツいのでは? なんて思っていましたが、オンボロホテルのオーナーのランクに、忍法お色気の術(?)を使うとこなんてすごい迫力で、観ている方も、頭クラクラになりそうでした。本当にどんな役でもこなしてしまう、素敵な女優さんですね。

ところで「クレイジー・フォー・ユー」の目玉といえば、タップ・ダンスともう一つ、ガーシュインの名曲がふんだんに使われているという所なんですが、こうしてど〜んとまとめて聞かされると、もうアメリカのスタンダードナンバーを聞いているという感じではなくて、自分にとってのスタンダードナンバーになりつつあるな、と今更ながら思えてきました。そういう意味でもこの「クレイジー・フォー・ユー」は身近に感じられる作品のひとつになってきたようです。

とにかく、元気が出ない時、落ち込んでしまった時に観るには最適の、元気の素をふんだんに持っているミュージカルです。あ、でもフラれてしまった時には「チクショー、あいつら上手くやりやがって・・・」なーんて思ってしまうといけませんから、観ない方がいいかもね!