みてある記 ロゴ25pt.

シルクハット 奇跡の人

おゆう
青山劇場にて
本で、映画で、あるいは教科書で、誰もが知っている三重苦の偉人ヘレン・ケラーと、彼女を生涯導き続けた恩師である、アニー・サリヴァンとの出会いを描いた奇跡の人」を、青山劇場で観てきました。

主な出演者
アニー・サリヴァン大竹 しのぶ/ヘレン・ケラー寺島 しのぶ
ケート・ケラー久野 綾希子/ジェイムズ・ケラー川平 慈英
エヴ伯母平木 久子/ヴィニー(召使い)田中 利花
アナグノス石田 圭祐/アーサー・ケラー石田 太郎
物語は、目が見えず、耳も聞こえず、したがって言葉もしゃべれないという、重度の障害を負ったヘレンの家庭教師としてケラー家にやって来たアニー・サリヴァンが、ヘレンとの文字通りの死闘を繰り広げたのち、ついにポンプからほとばしる水の意味を、つまり世の中の全ての物には名前があるという事をヘレンが悟るという、今更語る必要も無いほどに有名で感動的な内容ですが、今改めて演劇というジャンルを通してこの物語に触れてみると、単にサリヴァン先生とヘレンのステップ・アップのお話という訳ではなく、二人を取り巻くケラー家の人々それぞれが抱える家族関係の悩みが、二人の進歩に歩調を合わせるように、変化し、和解していく様が細やかに描かれていて、非常に見応えがありましたし、今まで知らなかったサリヴァン先生の生い立ちなどにも触れていて、興味深かったです。
今回の舞台では、大竹・寺島の「Wしのぶ対決(?)」がウリだったようですが、その名に恥じず、舞台上で水は飛ぶは、食器や食べ物は飛ぶは、果ては家具まで飛ぶわで、息を呑むような激しい格闘ぶりを見せてくれました。しかし、二人を支える実力派俳優陣の活躍を忘れてはなりませんね。
特筆したいのが、ヘレンの母親を演じた久野 綾希子。も〜、何時からこんなステキな女優さんになっちゃったの? という位、掛け値なしの愛情を惜しみなくヘレンに与える慈愛に満ちた母親、南部の賢くもたおやかな夫人を好演しておりました。「あの子がナプキンをたたんだ。」という台詞には、思わずバッグからハンカチを取り出した程です。今再び「エビータ」を演じたらどんな風になるかしら?
そして、いつもは宮本亜門ミュージカルなどで大活躍の川平 慈英と田中 利花。今回は二人が得意の歌もダンスもなかったけれど、上手い人はお芝居も上手い。川平クンは義理の母親と障害を持つ義理の妹に対する屈折した思いや、覆い被さる山の様な存在である父親からの飛翔を不器用に試みようとする、大人になりかけの青年の心情をよく表現していましたし、年齢的には若いけれど、まるで「風と共に去りぬ」のマミーみたいな温もりが感じられた、田中さんの演技にも拍手。
という訳で、流した涙がなぜか暖かく感じられたのは、二人の女性がおかれた不幸な境遇をただ嘆くのではなく、諦めない事が奇跡を生むのだという希望に溢れたお話だったからでしょうか。
帰りがけに買ったパンフレットに「翻訳・額田やえ子」の名前を発見した時に、そうだこの温もりはまるで「大草原の小さな家」だ、と思ってしまったあたしは単細胞。