「ディディエ」をお題にした小噺
お久しぶりに、春にひょっこり小話シリーズ。
今回のお題は「ディディエ」。
最近は変な患者さんが多くてお医者さんも大変。
「あのー、先生、ウチの家内のことなんですが。」 「はいはい、奥さんがどうなされました?」 「何とウチの家内が犬になってるんです。私の横に犬がいるんです。」 「はあ、ということはメス犬ですかな。」 「ふざけてる場合ですか。人が一晩で犬に変わったんですよ。」 「それは確かに大事件です。ですが、その.....」 「何なんですか。私が何か。」 「いえ、それでどうして私のところにお見えになったのかと。」 「息子や娘が先生のところへ来れば理由を教えてくれるとか。」 「はあ、それはそれは。」 「こんなバカな話ってないですよ。あまりにも不合理です。」 「まあ、そうですな。ところであなたの横に寝ていた犬があなたの奥さんだと思われたのはどうしてでしょう。単に奥さんが犬を置いて家出したのかもしれませんよ。」 「そんなこと。だって、家内がどうしてそんなことをするんですか。私たちは今まで本当にうまくやってきたんですよ。」 「うーん、でもその犬が奥さんだとどうしてわかります。」 「私にはわかります。あの目、そしてあの臭いは家内です。間違いありません。」 「そうですか。それでは致し方ありませんな。奥さんは今ご一緒ですか。」 「はい、外で子供たちと一緒です。」 「それでは奥さんに入って頂いて下さい。」 「はい、連れてきます。」 「なるほど、これが犬の奥さんですか。ちょっとご主人、外でお待ち頂けますか。」 「は、はい。よろしくお願いします。」 「さて、奥さん、ちょっと事情を説明して頂けますか。」 「お恥ずかしい話ですが、ウチの主人はもともと変わった人でしたけど、どうも私を犬だと思い出したようなんです。」 「それはいつからですか?」 「今朝からですわ。主人が起きて私の顔を見るなり大騒ぎを始めてしまいまして。私もすっかり取り乱してしまって。」 「ちなみにご主人は犬好きですか。」 「そりゃ、多分そうだと思いますわ。だって......。」 「だって?」 「だって、私も犬ですから。」 「わかりました、奥さん。」 「先生、どうでした。」 「確かにあの犬はあなたの奥さんのようです。」 「でしょう? 間違いないですよ。でも、なぜ急に犬なんかに。」 「いいえ、奥さんは昔っから犬だったのです。」 「ええっ! 馬鹿な。じゃあ私の今までの結婚生活は?」 「察するにあなた今朝、鏡をご覧になりましたかな。」 「いいえ、まだ。え? ま、まさか。」 「さあ、ご覧なさい。これがあなたです。」 「ええーっ、これが私ですかぁ? じゃあ、私が変身したってことですかぁ?」 「そうです。ちなみにあなた、犬とヒトごっちゃにしてます。」 「だって、私の養父や養母はみんな私を人として.....。」 「ははあ、最近そういう飼い主がふえてますからなあ。」 「え、違うんですか?」 「まあ、結局ご主人の問題でしょうな。」 「なんてことだ、姿形が変わったら妻を拒絶してしまうなんて。」 「ま、確かに異常事態ですから、カウンセリングの医者を紹介しますよ。」 「はあ、すみません。で、保険は効くんでしょうか。」 「あなた、ホントに犬なんですか?」 獣医さんも、春先は変な患者さんが増えてしまって大変です。 ジャックナイフ(64512175@people.or.jp)
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